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お前の後ろに新天地 [小説]

十月十日生まれの御主人様、なんか祝われてます、よ。
場外の出来事な上、
ご本人は及び知らないし、
あまつさえそっち側のメンバーは誰一人出てきてもいませんがお祝いですよ、マジでマジで。
飼い主の人も欲しければどうぞどうぞ、いらないならその辺にぽおいっ☆しちゃってくらしい。
↑のカラーをパレットから探すのに体力使ってテンションおかしいですよ。



風祭

登場人物:おじさん 妹弟2 姉兄2 +α 欺瞞の頤

(めでたいですね、はい、めでたいですね)
(一日限りの楽団)
(胡蝶と自由を想う夢)






風祭



ぴっぴら、ぴっぴら、ぴっぴら、ぴっぴら、ぴろりっぴ、朝っぱらから何をしているかと思えばあれはリコーダー……中学校時代に無理矢理買わされた奴、あれは殆ど使わずに終わったな……。本日は今までの台風を塗り潰す様な晴天、影になった縁側に向い正座を崩して座り、三角の耳の様に纏まった髪をふさふさと動かして。ぴっぴろ、ぴろりっぴ、よく見れば尻に敷いているのは俺の布団だ、朝起きたら掛け布団が無いと思ったら。

台風の名残か風が強い、未だに縁側に吊るされたまま外せば何時の間にか付けられる風鈴が、調子外れな笛の音に混じって鳴る。きっと振り向けば表情こそ変わってはいないのだろうが、調子に合わせて三角になった髪が動き、何の曲を吹いているのかは解らないが、あんなに楽しそうにされてはお相伴に与りたくもなる。気が付かれなければ妙な事も起こるまい、摺り足で気が付かれない様に近付いて障子一枚隔てた所に横になった。障子をそっと引いて、相手を観察出来る程度の隙間を作る。
気が付かれない様に、というのは厄介事に巻き込まれない為というのもあるが、どちらかといえばこの風景を崩したくないからだろうか。こうして横になって音に耳を傾けていると、所々リコーダーの何処から出しているのか解らない音が鳴ったりはしたが、不思議と聞くに堪えないという気分にはならない。前髪が額を擽って痒い、この生活になってからずっと髪を切っていなかった、そろそろ切り時だろうか。いや、それならあいつ等も髪が伸びてもおかしくない頃合なのじゃないか? そんな様子見た事も無いが。
平坦だった曲が盛り上がりを見せる、すると調子の良いそれに堪らなく体が動かしたくなって、とりあえず寝たまま背伸びした。体が動かしたくなるのは演奏者も同じなのか、そいつの穴の空いた白い足の裏がぎゅう、と握られて、伏せられた膝がばたん、と音を立てて床で音を立てる。小さな旋風がすっかり見知らぬ蔦植物に絡めとられた石楠花を逆立てて、また風鈴がじりり、と。一度はトーンを下げた曲調が、自分以外の演奏者に気を良くして盛り上りを見せた。
最初は調子外れだった物も、先程と比べると明らかに音楽といえる物に変わっている、機嫌で曲調を変えられるということは、あれはこいつのオリジナルなのだろうか。生々しい色をした血の染みが付いた白衣もまた揺れる、細く縦に長いシルエットの肩が上下するのを見ていると、見れば何時もと変わらなくて変わらないのであろう顔がどうしても気になる。何時も笑い顔で表情の解らない人間の本当に楽しそうに見える背中、近付いて覗いてみようか。そして、見てがっかりするのだ。目を瞑れば、それ以外の表情を想像するのは容易だというのに、それが形になったのは見た事が無い。
リコーダーの音に弦楽器、じゃあん、とおどろおどろしくも聞こえる音が混じって、俺はこのまま眠ってしまってもいいかと思っていた目をこじ開けた。間違えた、と言わんばかりに今度は、ぺんぺん、と。何時の間にやって来たのか、俺の布団だった物の大きな端に頭から生えた花がゆらゆら、肩が踊るのは最初だけ、小さな背中を観察するだけの身としてはアレの弦が何本か解らないが、三味線らしいそれの曲調は元に合わせて早い。あいつ、こんな事出来たのか。突然演奏者が増えたというのに、最初に演奏を始めたリコーダー演奏者は合図の一つも無く演奏を続け、主旋律を作り、苦も無く三味線は付いて回った。
起用に動く腕は肘から突き出た骨を邪魔者にもしない、リコーダーと三味線とは変わった組み合わせだ、突然千切れたかの様に落ちた旋律が一気に跳ね上がる。聞いた事がない曲、最初はあんなに拙かった物が今は正統な評価も知らないような俺を和ませる等とは、あいつ等が何時も称える「ただ幸せである事」の「幸せ」というのが少し理解出来る気がする。石楠花から椿に移った旋風、椿の固い葉はその分弾けた様な硬い音を歌う。足音、今度のは俺の近くに。

「あれは祝ってはいけない人間の祝いなんすよ」
「祝ってはいけないって、お前達らしくもない」

俺の直ぐ後ろにやって来ていたのは喋る方の白黒、白黒の分け目を今日は整える事は無く、所々斑に灰色にした様子は今の俺に似てだらしない。俺の頭の近くに体育座りをしたそいつは、また奏者が増えた、と縁側を指差す。いくら学が無くてもあれは解る、ヴァイオリン……何度でも言う、お前そんな事出来たのか。タイミングを見計らって音楽に飛び込んできたのは灰色の獣、太い尾でまだ大きく開いた布団の端を引っ張り、自分の範囲を失敬する。見計らったかいがあったか、違和感無く飛び込んだ音は直ぐに最初の奏者から主旋律を受け取った。
一応頭の上に言葉の解る奴がいるのだから、あれは何の曲なのか、何を如何弾いているのかを聞く。「人間の曲っす、だから音は知ってても名前なんて知らないっすよ」……そういえば、こいつ等は酒や煙草の銘柄にも頓着していなかった、人間にする事には基本的に興味が無いということなのか、それともただ美味かったり楽しかったり、それだけを重視しているのか。灰色の奏者は一人、ヴァイオリンの音が二重に聞こえるんだが、これは俺の知らない新しい演奏法ですか?
若干跳び入って来たそれに押され始めた気がする第二走者ならぬ第二奏者、突然三味線の音が聞こえなくなったかと思うと、とんでもなく勇ましい金管楽器の音が俺の眠気を脳から叩き出す。トランペットの音に良く似合うそれは、何と無く、誰だか解らない何処かの誰かがこの曲を作った時の心境が、人が自分の昔語りを懐かしんでする感覚だったのではないかと、そう感じた。尾がバシッ、と板の間を叩いて、リコーダーの音もキーボードに変わる。いきなり弾いている楽器が変わったというのに、全く繋ぎ目が無いそれの前では何がどうなって楽器が変化しているのか等、無粋だろう。
当初の旋律の面影が無くなってしまってはいるが、キーボディストになっている最初の一人は楽しいらしい、骨だけの太腿を床に鳴らす。自己主張をし始めたトランペッターは奔放に振舞う半面、主旋律を乱す事は無い。これで祝われている何者か、理由は何なのか全く解らないが直接聴けない事を同情する半面、聞く事が出来なくともこれ程祝われるのなら、普段からそいつは祝われるままに愛され、愛の向くままに振舞われているのだろう。ピンク色の花が音に合わせて本体の代わりに踊るのは、一昔前にはやったダンシングフラワーを思い出した。

「日向で輝く愛情もあれば、日陰でひっそりと見守る愛情もある、ってもんすよ
 此処で演奏すればおじさんにも聞こえるっしょ?w
 ほら、奏者はこれからも増えるっす、早くしないと布団の空きが無くなっちゃうっすよ?」

先程からずっと大人しく俺と共に音楽に耳を傾ける白黒が歌う様に唱える、「口を聞くことが許されないのなら言葉が苦手な者を、言葉で表す事が禁じられるのなら言葉以外で、差し詰めこれは唖者楽団か」それでも意地か、例え本人に伝わらなくても無理矢理に伝える方法を叩き出したのは、らしいといえばらしい。世の中の人間に言えば差別だの何だのと騒がれそうな表現、不思議とそんな事も如何でも良く感じる。『それでも構わない』のではなく、『心底どうでもいい』。ヴァイオリンがメインの曲は滑らかに染みる、それを見事に引き立てて流すのはパーカッション役。

痛い、目線だけ反らせて白黒を見ると、俺の伸びすぎた前髪を引っ張っている。そいつが指差す方向を見れば、波立つ石楠花の茂みから真っ赤な衣装を纏った中国が手には見た事無い、笛? らしい物を持って、ふらふらと唖者楽団に近付こうとしていた。お前は喧しい程に喋れるだろうが。まあ、そんな事はもう関係無いのだろう。前髪を引かれるちりちりした痛みに体を起こすと、白黒がぱあっ、と顔を明るくして今度は俺の手を引く。どうやら、俺が向こうへ行く気になったと思ったらしい。勿論、そのつもりだ。
誰を祝っているのかも解らない、ただ楽しくなりたい、たったそれだけの理由だったとしても、それを他人を祝う気持ちとして思う事は悪い物ではない、良い名も知らない音楽を聞いて、美味い何なのかも解らない物を食べて、ただ心から相手を思う。それに理由なんて要らないし、何かを小難しく考える必要も無く、ただ楽しめば良い。現に今の俺は訳が解らないまま知らない内に祝いのお相伴に与り、それが自分の物でなかったとしても、他人を祝おうとするこいつ等の心を見て、この通り、楽しんでいる。知らない事の幸せ……こんな良い意味で、この言葉が使える日が来るとは。
よっこいしょ、勢いを付けて起き上がった所為で一瞬骨が骨が痛む、お誘いをしてくれた白黒には悪いが俺はこれから行かないといけない場所がある。縁側とは別方向に行こうとする俺の腕を掴んだまま、寝ぼけてしまったのかを聞くそいつの顔を見ていると、何故か礼を言いたくなった半面、からかってやりたくなり、白と黒の境目にある鼻を抓んでやった。突然の事に鼻声な驚きの声を上げてもごもごと何かを口の中で唱えるそいつの顔は、何と無く、赤くなっている気がする。ふと、一瞬キーボードの音が止む。それは一瞬だ、最初の奏者が俺に手招きする一瞬。なんだ、最初から気がついていたのか。
今更ながら俺は俺を笑う、何故、最初に音楽を嗜むこいつ等に一瞬でも警戒心を持ってしまったのか。行くべき場所は台所、もう俺が名の知らない笛の調べは始まってしまっている、一人目の例外が現れたというのなら次から次へと次が現れるだろう、そうなってからでは遅い、酒と肴、急がなければ。本当は自分が一番目か二番目の例外になる気だったらしく、虚空から何かを作り出そうとしていた白黒に引かれた手を逆に引き、学も無く楽も下手な俺はこの祝いを更に盛り上げる役になった。これからコキ使われる可能性を察して、「どうせおれは使いっパシリっす!」と、半ば諦めて受け入れた白黒が取り出す物を楽器から盆に変えた。忘れた頃に風鈴の音がちりん、と鳴る。

誰だか知らないが、おめでとう。
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浅海由梨奈

あまりに驚いてコメント遅れてすいませんです!
今またもう一回読んだw
ぽおいっ☆…なんて…するもんか!ばかぁ!!←
うおぉ、なんかすごい祝われてる、祝われてるー!
ダンシングフラワーて読んだ瞬間笑ってしまいそうになったのはご本人には内緒にしといてくださいませ。(
本当にありがとう、幸せです、皆ありがとう。
全力でお持ち帰りさせていただきます!
by 浅海由梨奈 (2009-10-11 03:04) 

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