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よく帰ってきやがったなこの御主人様が!!! [小説]

彼岸SSS
帰り道・戻り道

登場人物:おじさん めっちゃ外見が汚い人 弟(少し)

(誰だか内緒)
(一人は判明するよ)
(やっとこお目覚めで御座いますか)









帰り道・戻り道



やっぱり最後は来た時と同じ長い川、今度の陸地には花はなく泥に溶けた土に直接船が停泊させられていて、船底にはぐすぐずに溶けた茶色がべったりとこびり付く。空路、陸路と適当な乗り物に乗せられていたが、今度は帰る時と同じ木製の小船、陸にそれを結び付ける縄にも泥は纏わり付き、その先の杭は今にも抜け落ちてしまいそうだ。……まさかこの場で舟が何らかの理由で無くなったら、俺は永遠に帰れない、とかないよな。
思ったより小波の多いそこは、川岸に立つと泥の混じった水がばしゃばしゃと跳ねて、俺の服を汚す。一度現実に帰った後、破った服が元通りになっていたのでこの辺は大した事ではないが、濡れた布の重量感は不快でしかない。そろそろこの奇妙な長旅も終わりに近付いている気がする、昼夜も無ければ変化も無い平坦すぎるこの旅では何日が経過したとかは解らないが、帰り道は逆走らしいので根拠はある。どうせ終わるなら心和やかに、だ。
船頭がやって来た、今度もまたこんなに特徴的な動き方をしているというのに思いだせない、というより、そんな動き方で櫂を漕ぐ事が出来るのか? ああ、漕がなくて良いのか。川縁に立てばそいつの体にも泥が跳ねる、服が肌に張り付くのはどんな人外でも同じらしく、泥に突いた四肢への不快さでそいつは眉を潜めたかと思うと、忌々しげに杭を叩き、陸へと更に強く結び付けた。ぐちゅ、杭の先が泥から覗く。
その鍵爪ではやっぱり泥に滑るらしい、同じ場所を何度も引っ掻きながら縄を解こうとしているが、その度に上手く行かないらしく舌打ちの音が聞こえた。太い荒縄には幾つも裂けた場所があり、その分だけ苦戦しているらしい、このまま放っておけば縄が解けるより先に縄が切れるだろう。だが、そんなに困っている何者かが目の前に居て、それが自分の身内というのなら当然助ける以外の選択は余程機嫌か体調が悪く無い限りは無い。
ぎちぎちと何処から出しているのか解らない音を立てるそいつの横をすり抜けて、鍵爪の前に手を差し出すと、黒く鋭利なそれが退く。こんな肌色の肉だけで出来た手、この爪の本気で一撫でされたら千切れるだろうな、解っててやったんだが。泥を吸った縄は想像以上の強さで括りつけられており、爪に引き裂かれた部分の刺々しい感触が一瞬俺の後悔を誘ったが、それより早く俺の前に黒い閃光が。縄は一刀両断されており、そいつは自分の爪に張り付いたらしいそれを、まるで毛繕いする風に舐める。

「一つ聞きたい事がある」

蛇になる前に切り裂かれて、赤い血を撒き散らしながらのた打ち回って逃げようとするそれを、無責任な船頭が追おうとしたので、聞きたい事で静止した。別に蛇は命拾いしていない、身体の半ばで両断されたそれは徐々に動かなくなって……視界から外して置く。俺に質問を投げ掛けられたそいつの口には、一番近くに落ちていた緑の長物が咥えられていて、以外に素直なそいつは最後の抵抗をしているそれを咥えたまま、片方は俺を、片方は自分の口元を見ながら半身を起こす。
川は泥混じりでお世辞にも綺麗ではないが、奇妙に遮られた薄暗い太陽と、今まで通った旅路の中ではその現実味が悪くなく感じる。別に食事を中断しなければ話が出来ない訳では無い、口でぴるぴる動くそれを食って良い事を手で促すと、まるで蕎麦を啜った時の様な小気味良い音を立てて緑の鱗は消えた。あっという間に口が二噛み動いて、次に喉が、おい、消化に悪いからちゃんと咀嚼しろよ。軽い食事を終えたそいつは、妙な方向に明く目をしばしば瞬かせる。
今回の旅は俺にとってはかなりの長岐に渡って鮮明に思い出せる自信がある、それこそ一生同じ景色以外は見れないのではないかという時に振ってきた別世界の景色、白紙の上に墨汁を垂らした様な物だ。垂らされた墨も墨、これは俺の予測に過ぎないが、今度見ていた物は同居人達の別側面、人は何かと付き合って生きていれば何かの優劣が絶対に生まれ、その分だけ目に見える物から見えないものまで、態度という様々な側面が生まれる。今回、俺は片鱗に触ったのだ。
俺が飛び降りようとした時、あいつは俺を助けようとして確かに助けた、そしてどれだけ突き詰めて話そうとも結局は俺とあいつ等の会話になっていたのが、此処で見た物が何処かの夢物語や、都合良く改組されたアトラクションでは無いという証拠。どの側面であっても何者かが同じ何者かであって、一定の物には強制的にもう一方の側面が呼び出される……それこそ、当たり前かもしれないが、それが感情という奴だ。与える側も受け取る側も同一人物であるなら、おのずと向けられる側は一面になる。

「あん?」

「お前達はこの事をちゃんと覚えてるんだろうな」

半分になった蛇を食べて、今度は舟を括りつけた側が食いたくなったらしく、そいつの顔がぐいぐいともう二度と動かなくなった蛇を見始めていた。泥に汚れるのも構わずに尻を付けて座るそいつは、俺にも座るように手招きをするが、生憎この後船に乗らなければならないので遠慮をさせてもらう。手を握ると泥がねちゃ、と音を立てて指と指を弱く接着していた。乾いた物がパラパラと落ちる。泥塗れの船頭は自分の顔に泥を一筋塗ると、それをまた俺に促す。勘弁してくれ。
あいつ等は俺に何もかもを覚えている事を何度も確かめる、俺は記憶力は良い方だと自分自身で自負しているが、あれだけ非現実的且つ一生忘れられなさそうな事が立て続けに起これば記憶せざる得ない、今度のこれもその延長線、今度の事は忘れられそうも無い。だが、こいつ等にとっては如何なのだろうか、それこそ非現実的な出来事を作り出した当事者達にとってそれは日常茶飯事の可能性もある、ましてや何でもありの電脳空間、これ以上の事があっとに決まっている。
なら、あいつ等は俺にした事や俺の反応、発言、その辺りをちゃんと覚えているのだろうか、それこそ俺が覚えているかを確かめる様に俺が確かめた時、あいつ等は俺と同じ様に思い出す事が出来るのか。俺はそれを知らない、肉体関係以上の関係を結んだ今もこいつ等は過去の話をまともに話さない為、こいつ等が今までどの様に生きてきたのかも解らなければ、昨日の事をちゃんと覚えているのかすらも解らない。全てが俺の信用に任させれてきた。きっと人間なら噴出したのだろう、喉に溜まった痰を吐く様な、咳にも似た笑い方をしたそいつは、素っ頓狂な顔をして首をかしげた。

「覚えてて良いのか? 折角巻き戻してやろうと思ってたってんに」

「何も忘れるべき要素なんて無いだろ」

思ったより素直な船頭は、秋めく風にべったりとしたありえない色の髪を揺らせながら、こっくり頷く。結局、俺の欲しい答えは貰えずに。









「ああ、もう朝か……」

「おはようございます、これ以上眠り腐っていたら布団が傷みそうなので、そろそろ口では言えない方法で起そうと思っていた所を迷惑な」

「それはもう別の奴がやって……まて、今日は何月何日だ?」

「九月二十六日、三日ぶりのお目覚めで御座いますよ」

「そうか」

「伝言が『聞き返せるなら思い出せるに決まっている』だそうですよ、当然ですね」

「ああ、それもそうか」
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