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SSS(治):おじさんが元気になったようです [小説]

モンスターズ

登場キャラ:おじさん 極楽郷の頤

きらきら度:★★☆☆☆
(おお、平和平和)
(おお、短い短い)
(言ってる事案外変ですが、ね)






モンスターズ



昨日一晩の後から、俺の萎えた手足が痙攣する事は無くなり、発熱する事も無くなり、立ち眩みに嘔吐感、その他もろもろの体調不良が起こることが無くなり、俺の病は昨日一晩で全快する事になった。まだ崩れている部分もあるか、そう思って大事を労った所で、時間を巻き戻したかの様に元に戻っているのだから世話が無い。案外、本気で巻き戻したのかもしれないが。
此処にやってきてから常日頃に続けている自堕落な生活、これ以上は何を健康に気を付ければいいか解らないが、とりあえず暫くは病み上がりらしい食事をする方向で固まった。何か心配をする必要は全く無さそうだが、治っているのはあくまで俺の体だけで、俺の中ではまだ病気の名残の様な物がある気がしてならない。人間は精神に振り回される生き物だ。その提案はありがたかった。
家でぼんやりと過ごす事も日常茶飯事、外部との接触が可能な物としてPCが数台存在しているが、今更逃亡を企てる気は無い。コレにのめり込んで現実逃避が出来る程、俺は根気強くも無い……この白い箱は俺の為というよりは、あいつ等が電脳世界から出たり入ったりする為の物である。外では毎度盛況な事に、リヴリーを飼っている人間同士が自分の研究のご披露をしたり、どっかの偉い人が新技術をお披露目、といった内容が最近は多い。
何をする事もあいつ等は俺に許したが、あいつ等は俺が門の外や、電脳世界に行く事を口では言わずに強制的に止める、やる事が昼寝しかない。病み上がりで調子に乗って体を壊してはならないと、こいつが俺の監視に付いているとらしく、今日になってから一日中こうして付き纏われているのだが……俺は子供か。やたらと目を引く衣装と白塗りは、俺が何をしていても強制的に視界に入ってくるので、迷惑とまでいかないが視界に喧しく感じた。
PCを扱う事すら久しぶりだったが、僅かに入ってくる外部の情報で、俺がこうしてぼんやり過ごしている間に『新種』『新技術』という言葉が百回は登場していて、浦島太郎になった気分だ。俺がこちらを覗いた範囲は狭く、あいつ等が遊びに行った様子を何と無く見た事からの副産物だったので、外部の情報を入手しようとちょっと覗けばタイムマシンに乗った気分になれるだろう。無論、未来片道で。

退屈なら自分の部屋で昼寝をすればいいと、そいつは俺の手を引いてそいつはこれまた、本人の性格が出る様な派手な部屋に俺を連れ込む。真っ赤な壁に竜の装飾、何だかよく解らない古い看板にバーバーポール、明らかにゴミ捨て場からやってきたそれらは、喧しいを通り越して眼球に向って大声で歌われている気分になる。こいつは俺の監視、兼お守りを喜々として請け負ったのだという話を何か在る度に俺に聞かせて、その度に「ご褒美くれるカ?」と言う。頭をがしがし撫でてやると静かになる。お前はそれでいいのか。
二つに仕切られた真っ赤な部屋の奥は寝室らしく、無造作を通り越して何か儀式的な意味合いがあってこんな有り様なのではないか、そう考え込んでしまう程にごっちゃりとした布団。これもまた無駄に装飾が。足の裏に違和感を感じて見る、辺りに散乱している物はおはじきらしい、派手ならなんでもいいのか、最近見なくなって懐かしいな。流石にこのままでは拙いと思ったらしいそいつは、布団の掛け布団らしい部分をぼふん、ぼふんと蹴って平らにして、手で寝る事を促す。
あまりにも派手な装飾だらけの部屋は、元からそこまで眠たくも無かった俺の目を覚ましてくれて、すっかり寝る気も失せて近くにあった椅子に座る。そんな所で寝る気なのか、そう思っているのか、そいつは俺の事を不思議そうな顔をしながら近くの布団を握って、ずるずる引き摺って俺に寄越す。風邪でも引いたら厄介だと、心配してくれているのだろうか。黒目しか無い目には、何時もと変わらない俺が映っている。……いや、布団はいらない、敷布団も持ってこなくて良いから。

「その内……食用リヴリーとか出るかもな」

布団から何から、掛けられる物はとりあえずもってけとばかりに俺の足元に布を積むそいつが、突然の事を言われて止まった。今朝ちらりと覗いた工業用新種がどうのという話題を見て思いついた、こいつが食いつきそうな話題を選んだつもりだったが、どうやら大当たりだったらしく、そいつは俺の足元の布団をうっとおしそうに掻き分けてこっちにやって来た。この片付け、後で手伝わされるかもしれない。
人間は驚く程に悪食な生き物で、こいつの姿を見ていると彷彿とさせられる人種は足がある物は椅子とテーブル以外の全てを食べるというが、世の中には椅子とテーブルを食べる人間も居る辺り、人間というのは総じて悪食なのだろう。今は愛玩物として扱われているが、居る所には軍用やら、今回の様な労働力としての使役も当たり前になりつつある辺り、食料としての研究は普通にされていそうだ。人間の様な姿をして、人間の世界に徐々に人と区別無く過ごしている様子を見ると、その内水やら空気やら建物やら、その辺もリヴリーに……というのが、シャレで終わりそうも無い。
足元に落ちている物をこそぐ、一握りのおはじきを持って来たそいつは、それを俺の膝に一つ一つ乗せた。部屋の極彩色とは系統の違う、透明度の高い赤やら青やら、視界の向かいにある中華棚の上段に似たような色が浮いていて、それは瓶の中に大量に入っている。集めているのかを聞くと、四、五年前から集めているらしい。俺の膝の上は何時の間にかカラフルになって、立ち上がったそいつは俺の唇に指一本置いて、動かないようにと念を押す。
手の平に乗った赤いそれを見ながら、そいつは何の気無し「人間は食うなら灰汁抜き必須アルヨ」と、冗談にしか聞こえないが明らかな本気を篭めて言う。今更驚く気にならないのは、俺もまた狂っているからだろうか。リヴリーも等の昔から食われているらしい、そいつは歌う様に何の何処か美味い、何は何処を切ると即死する、コレは生け作りにしないと火を入れられない等と、酷く現実離れした会話をぽんぽんと口から出して、手の平で赤を弄ぶ。
俺の反応が薄い事に関して何かを思ったか、「オジサンも食べるカ?」と小首を傾げられたので、これはちょっと遠慮させて貰う。俺はこいつ等が嫌いな訳では無いが人間としてみていない、人間に従事する奴隷としても見ていないのは、こいつ等が人間とは何かが決定的に違う人外だと思っているからで。それらがこいつ等が人間を食べる、という事に対しての違和感を消しているが、自分自身がそれをする気にはなれない、俺は人間だ。内心、恐怖に近い嫌悪感が無いかと言えば、嘘になる。
ふと、不思議に思う、こいつのその様子からは自分が淘汰される可能性というか、危機感の様な物が全く感じられない。自分が何者かを食べるというのなら、自分自身が食われる可能性を一度も考えない事は、スーパーでパック詰めにされた肉を見るだけの人間でも無いもので、人間のカニバリズム趣向というのはそれの延長線だ。こいつ等は人間ではないから『カニバリズム』という概念は通用しないのだろうが、何も考えないという事は無いのではないだろうか。
お前は自分が食われる可能性を感じていないのか。今日に入ってから随分と唐突な話しかしていない、それを口に出してみると、そいつは手の中のおはじきを強く握って、その手から光る粉をパラパラと落とした。あれが何かは予測が付く、ああ、同じ赤でも林檎を潰すのは珍しくないが……やっぱり人間じゃないな。行動に似合わずそいつは上機嫌で、膝の上に乗ったそれらをまたこそぎ集めて、強く握って粉に、今度は床に粉を撒く事は無く手の平を開いてそれを俺に見せた。

「怪物ってやつは、人間が倒せないから怪物っていうアルヨ」

「じゃ、人間に退治された奴は」

色取り取りだったそれは、今度は色取り取りの粉になって、そいつの普段は長い袖で表に出ないが、顔と同じにして真っ白くした手を彩っている。硝子の塊を握りつぶしたというのに、そいつの柔らかい手の平には傷一つ無い。理由は簡単、柔らかいそれは本当は砕けた硝子片を通さない程に丈夫か分厚いか、この粉が最早破片というべき鋭利さが無くなる程に粉砕されているか……どちらにしても、夢のある話だ。夢じゃないけど。
竜退治、怪物退治、どれもフィクションだが『怪物』という例えその物がフィクション、俺が一方的にこいつ等を人外と言っているだけで、こいつ等は世間様から見れば『怪物』なんて分類にはなっていない、どんな不気味な外見をしていたとしても、動物は動物である様に、リヴリーはリヴリーだ。自分を怪物に例えたそいつは、袖から出していない方の手を引き出して、粉を握った手の平を袖から出したらしいペンライトで照らす。光に照らされたそれは、光を反射して色取り取りに輝く。消耗品にするには勿体無い気もするけど、虹色としか表現の仕様の無い光を見ながら、そいつは眉があった場所を下げる。
もしかしたら、こいつがこれらを集めているのはこの光を瓶に入れたいからか、そんな考えが過ぎったが、聞きたいならその内聞こう。これがその内になってしまったのか、逆にこいつに質問をされたからだ「豚肉は豚か、肉か」、……生きていないのならば、それは肉だろう。わざわざ豚『肉』って付くのだから。赤い部屋の中でも周りの色に負ける事無く、濁る事も無く輝くそれは、暗い場所で見ればもっと綺麗だろう。「ほら、答えアルネ」裸足の踵が床を叩いて、妙な仕組みが部屋を薄暗く変える。ああ、やっぱり。

「ただの肉ネ」

妙に納得した。
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