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にゃんにゃんにゃんの日SSS [小説]





にゃーご


ネコミミ幼女がセクシーポーズを取る、良心ある人間が見たら卒倒してしまいそうな光景を前に、鼻息荒くハァハァと、成長記録風ポルノ写真集には必要不可欠、と主張して止まないポラロイドカメラのシャッターを切るネコミミの生えた見るからに性犯罪者が一人、これは寧ろ卒倒ではなく通報か。ネコミミだけでも通報だろう。次は女豹やってみよう、そろそろ鼻血が出そうなそれが次のポーズをテレサに頼む、はーい、と元気良く素直な返事が返る。
普段の彼女にはネコミミなんて生えていない、じゃあ何故、今日は二月二十二日だから、暇潰しに命を懸ける彼らにとって正統な理由などちり紙程度の価値もない。この場所か今日に限っては全ての住人にネコミミが、例えそれが四十過ぎの男であったとしても、容赦無くネコミミは襲い掛かり、頭に居座っている。しかし、彼は最初こそ面白いとは思っていたようだが、今ではまた酔生の中に沈み、酒を飲みたがるミュールとリアをおよよ、およよ、と止めて何時もの調子。
もう少しそこ寄って、くっつていてぇ、と同じくネコミミの生えたペトラとドルテがそれが予測した数倍は素晴らしくくっつきあい、シャッター音が鳴る。遠巻きにその様子を見る家令はにこやかな表情を浮かべながらユリアーナにエプロンドレスを着せ、ふりふりの服を着てご満悦なユリアーナは、スカートの裾を持ってちょん、とお辞儀をした。ロングスカートにガーターベルト、見えないところが良い、とナースを着せられたマルセルは最初こそ恥ずかしがっていたが、今は聴診器を縫い包みに当ててなりきって遊んでいる。心拍は無い。
「そこの裸の女、邪魔だっ! ど……って、なーんだベルか」
レンズに映るたわわな胸とくびれた腰、張りのある尻、あんまりにももったいない一言に少しむくれてひよこ口を作ったバルベル、あたしも撮ってくれていいのに、と変態の頭に胸を乗せるが、変態はそういう変態なので究極兵器も効きはしない。似合う? と、ヘッドドレスを髪に止めてもらったユリアーナがバルベルにもお辞儀をし、かわいいネコミミごと頭をくしゃくしゃ撫でられて笑う。はい、次はM字パピヨン。足をM字に開いて露出した乳首に蝶の形の……今日に入ってからこの変態は十四回殴り倒され、七回蹴られている。
近所の変態紳士なおじさま、という役で使うが為にそれまで待機を命じられてから衣装代えの手伝いの時以外ほぼ全く動かなかった家令は、バルベルの肩にそっとミンクのコートを掛けた。屋敷内は彼らの能力によって適温に保てれているが、様は気分の問題、彼は身重の妻を心配している。折角全裸でいても怒られない場所に来たというのに、服を手渡されてぷー、と彼女は唇を鳴らすが、心配の態度は伝わったらしくきちんとぬくい格好になった。ちょっと離れて、はい、手を繋いで。はーい、と勢い良く手を上げたドルテに手を握られたまま、ペトラの手が跳ね上がる。
「ねこみみー、うふふー、かわいーv」
「煽てたっておしゃけはあげにゃいよー?」
手に握ったぐい飲みを二人の幼獣に捕らえられないようにひらひらと動かし、わかってるってば、と今度は緑色の耳をふにふに触るバルベルに、酒臭い彼はくすぐったそうにぴるぴる耳を動かす。焦れたリアが長細い指に喰らいつき、一口飲ませてくれないと噛み切るぞ、とばかりに歯を立てる。ふと影が重なってリアが上の方へ目を向けると、口元のスカーフをずらした彼の顔が、酒臭い息、思い切り吸い込んでしまい咽て放すと、羽を瞬間的に羽ばたかせて辺りのにおいを飛ばした。
においだけでもうフラフラしているミュールはぱったり倒れて、目をぐるぐる回している。まだ諦めきれないリアに、バルベルはにゅう、と腕を伸ばして腋の下をくすぐる、何か抗議しようとする度にくすぐる。次第に疲れて大人しくなり、最後ぐったりした頃には、テレサは新たにマルセルと共に「ザ☆にゅーパンツ」というポーズを取る様言われ、嫌な予感がして逃げようとするマルセルをテレサが引き摺りながら元気良く返事を。あ、猫ちゃん、ユリアーナと目が会った猫は、機嫌が良かったらしく、にゃあ、と返事をした。
お腹丸出しのミュールをそっと抱き抱え、何時の間にか部屋の隅に敷いた子供用の布団に寝かせる家令、掛け布団は桃色のねこさん柄。あまりにもぐったりしていたので、やりすぎてしまったかと心配したバルベルだが、直ぐにまた元気に抵抗を初めたので遠慮無くくすぐる、もう触らなくても指の気配が体を掠めただけでびくんびくん笑いだすので、いい加減可哀想になって止めた。今度こそ完全に疲れ耳と一緒に生えた尻尾を垂らしたリアは、最後の力で腕から逃れてごろごろ部屋の隅まで転がって、壁にぶつかる直前、完璧且つ瀟洒に止められる。
「べるぅ~」
ぺろり、人の物からは遠く硬くぺとりと肌に吸い付くような質感の舌が、笑い袋を無くして暇になったバルベルの手を掴み、舐めた。唾液は少なく僅かに濡れた感覚がするだけだが、毛も無いところで毛繕い、そんな彼の頬をバルベルは掴むと、ぺろり、と一舐めして毛繕いごっこに付き合う。にゃーご、威嚇を含めた鳴き声とにらみ合い、色々な場所が紐なパンツ、具体的にはマルセルの股間の部分をじんどった本物の猫は、尻尾を逆立てた変態がどれだけ威嚇しても退いてくれない。
次第にモデルをやるのに飽きたらしい、ドルテはペトラの手を引き、じゃれあう二人にとことこ寄って来る。どうしたの、混ざりたいの? と、酒のにおいだけではなく、互いの精の匂いも混ざり始めてきたバルベルは、不思議そうな顔をしたドルテの瞳を覗く。ドルテは手を伸ばして、二人は今からせっくすをするのか、と割と真剣に聞いた。最初は手を引かれるままだったペトラは、意味が解っているのか……せっくす見たい、見せて、と手足をぱたぱた動かす。
唾液で褐色の肌を濡らしたそれが、じり、と座ったままたじろいた。別にセックスを見られることなら問題無い、バルベルは見られながらしたことなら何度かある、だが、そもそも性行為の出来ない上、訳あって体を人前に晒せない彼にとってそれはNGなのだ。さて、まともに説明しても理解出来ないだろう、大人がセックスをするのが当たり前というのがこんなところで仇になるとは、とりあえず、今にも良い笑顔で「いいよ!」と言ってしまいそうなバルベルの唇に指を置いて眉を下げる。
「はい、お兄ちゃんのお写真のお手伝いしてくれた良い子には甘いのあげようねー!」
甘いの、と聞いて飛びつかずにいられる子供は少ない、ましてや性癖が腐り切って黴の沸いた状態のロリコンであっても一応は家族の一人、腐っても鯛だ。警戒する余地のない変態の言葉に、ペトラとドルテはくるりと振り返り、掃除機で吸い込まれたかのように布団で寝ていた筈のミュールまで飛びつく。いたいげな幼女の質問に囚われていた彼に対して変態は、一つ貸しだ、と目配せをして隣の部屋へ行列を作る。しかし、約一名リアだけは嬉しそうにペトラの耳に喰らい付き、もごもご口を動かしている。
いや、文字通りに甘い甘い誘いは子供以外にバルベルまで吸引して、あたしもたべたーい、と尻尾をくゆらせた。立ち上がるのを横着して膝立ちになり、そのままよこよこと歩き始めるが、不意に後ろから抱き止められる。失礼します、と凛とした声。背中に張り付く内側の毛皮が温かく、柔らかで気持ちが良い、抱き止めるだなんて珍しい行動に出た家令は、そのままゆっくり体勢を変えてそっと膝の上に乗せた。
「むー…甘いのー……。どうしたの?」
「はい、…………私めもまた肉体的な繋がりによって感情を伝える術を持たない体だった、と思い出しまして」
半開きのバルベルの口に包み紙を解かれたチョコレートが入れられ、甘味に紫色のしっとりした毛に包まれた耳がぴくぴく動く。紫色の耳は家令も同じ、さっき毛繕いと称されて舐めあう姿を見た時のように、家令はぴくぴく動く耳を食む。世の中には、言葉では伝えられない事が多すぎる、そう完璧でも瀟洒でもない心の中でごちた彼は、手触りの良い髪の房を掴んで頬擦りする。生理反応から耳は動いて口から外れた。中に蜂蜜の入ったそれを食べ、もう一度口を開けると、今度は薄ピンクのものが入れられる。
きっと今頃チョコレートを食べながらお茶会を始めている少女達の発言が切っ掛けになったのだろう、彼もまた肉体的な感情の発現が出来ない身。立場から自分の感情を抑止し続ける必要を負っていたからずっと押えてはいたが、もしや寂しかったのかもしれない。何時か、肉体の繋がりを持てない自分が、逆を行く彼女に捨てられてしまうのかもしれない、と。抱き締める腕はここぞとばかりに力こそ柔らかいが外れない。腕の中から出ようとすると抱きとめられ、彼女は上を向いて顔を見る。黒い色に雑じり気の無い銀色が浮び、黒にただの男の顔が映った。
バルベルは腕を一本伸ばして、多少無茶な体勢だったが、整った髪形をくしゃくしゃにするよう撫でる。くしゃくしゃ、くしゃくしゃ、何時の間にか褐色の腕も加わり、くしゃくしゃ、寂しさを忘れてしまうまで、くしゃくしゃ、くしゃくしゃ。彼のネコミミが痛くなって髪型が崩れきり、風呂上りと変わらなくなるまで撫でて、思いの外長い前髪が降りた顔は歳相応の青年の表情だった。青年は固い舌に頬を舐められて、目を見開いて驚く、酒臭い彼はけらけら笑いながらもう一舐めして面白げに笑う。
下を向くと、鼻の先に柔らかく湿ったものが触れ、青い色の舌が鼻の先を舐めていったのだと青年は知った。夜の闇に似た黒い色に自分の姿が映る、銀の目は彼女の、自分の中に彼女が浮かんで見える。ずっと下を見ているとまた舌が伸び、鼻先をぺろり、と舐められた。毛並みの崩れた青年を、今回は二人が毛繕いを。青年が驚いて腕を緩めると、あっという間に腕の中から彼女は離れ、名残惜しむ彼の鼻をスイッチのように押して、眉にキスをする。にゃあ……、と戸惑いがちに、聞き取れないほど小さく、控えめに鳴いたのは誰か。
「伝わらないなら伝わるまでお話してあげるわよぅv」
猫のものより硬い尻尾が、ゆるり、ゆるり、と自由に動いて、悪戯な鏃が甘えていた。

今日は猫の日、猫の目のように夜を見通す日。
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