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その後必死になって体を洗ったらなんとかなりました [小説]

ハロウィン前日SS
尻尾

登場人物:おじさん 三つ子 パチモン

昨日の続きらしいよ。

(労る)
(慈しむ)
(ぽんぽこす)







尻尾



「なぁ、お前達、治したんだよな?」

体の中から音がする、手の平を耳にあてれば血管を巡る音が聞こえる、腹が減れば腹の虫が鳴る、だがこれはそんな物とは比べ物にならない程の物だ、具体的にいうならまるで何かの呻き声の様な、百年間雨曝しにされ続けた枯木が煽られる音とでもいうのか、兎に角体から鳴ったら「あっ、俺もう死ぬんだ」という雰囲気の音が鳴って、鳴って、鳴り止まない。こいつ等に近付くと。
原因の一つは知っている、正午同居人の一人が菓子をくれてやったというのに勝手に悪戯をして、俺の大腿骨を鳴る骨にしてしまった。あの時、俺の骨が挿げられた事を報せた子供は後遺症がどうのと言っていたが、これがその後遺症だとするならプラマイ0じゃあないか。目を瞑って音に耳を傾けると、その中には水尾とが混ざっている気がして、何処かで聞き覚えの声の様な物も聞こえた気がする。
俺を治療してくれた、ああ、うん、あれは治療だよな、治療してくれた黒い子供は、俺は心底困った顔をしているであろうに静かな目をしたまま、大きく膨らんだ腹を慈しんで撫でた。その仕草は否応無しに和むから止めてくれ、三人分というだけあってまだ産み月には遠いが臨月近く大きい、俺の耳元では和めない人達の声が聞こえてるから。眉が歪んだ、最初は驚いたがどうという事はない、子に内臓側を蹴られたらしい。
今日は口を聞く気分ではないのだろうか、横座りのまま尻を擦ってそいつは俺に背中を向ける、回り込む、また非常に緩慢な動作でずりずりと体勢を変える。もう一度正面に回り込んでも良いが、あまり妊婦を苛めてもただただ己の良心が痛むだけなので止めよう、だからといって俺を苛めて良い訳では無い、箪笥の中から俺を覗いている奴、出て来い。じっ、と其方を見る、唐突に置かれたクローゼットの中から出てくるのは、同じ様に腹に子を抱えた青い子供。
ぬめりを含んだ音がして何かと思えば、黒い子供がゆったりしたシャツの腹を捲って、自分の腹に何か塗っている、たしか、妊娠線予防クリームだとか。母体の皮下組織を裂いて成長する子は三人、俺が見ている限り手入れはかなり念入りにして居たが、それでも赤黒く罅割れたそれは痛々しかった……ああ、悪い、今気が付いた、見られたくなかったよな。ちら、と青い目が此方を振り向き覗いていたので、許してもらえると信じて謝った。

「治したよ、ついでにご褒美もあげたよ」
「一緒になったね、よかったね」

クローゼットに詰まっていたのは一人ではなかった、だから可愛いポニーテールがはみ出していたのか、二人目の透ける様な肌をした子供は目元も口元も無邪気に笑わせ、両手を俺のほうに突き出し、近寄ってきた。腹が重いらしい、なんだか足取りが危なっかしいので立ち上がって近寄ると、俺の肩に手を置いて「捕まえた」そう、呟く。青い子供は所謂、自分で自分の腹を持つ格好のまま、またフラフラと此方に寄って来た。拒む理由も無いので、肩を其方側に寄せて歩く範囲に気を使って置く。
ご褒美、という明らかに好意的なワードを聞いて嫌な予感しかしないというのは、明らかにこいつ等がそんな事をいう時は天変地異の前触れか何かだからだ、この前は何があった、落ちながら、とかもう二度としたくない。兎に角こいつ等が正午にやらかした奴の後、新たに自分の仕掛けをやらかした、そんな所だろう。対象者に近付くと音が鳴る、という手口も同じだ。歩くのを気遣って立つのを気遣わないというのも何なので、立ち話から座り話に意向する、部屋の角に平積みにされた座布団を……眼鏡、白が二匹になった。
黒い子供の隣に、ちゃっかり座布団を敷き俺の方を向いて座っていた白は、眼鏡の下の赤茶色の目を細めている。三人分の座布団を取って二枚敷き、もう一枚をくるくる喉を鳴らす黒い子供に出来るだけ其方側を見ないようにして渡す、腹が冷えては可愛そうだ。一緒になったとはこれもまた前回よろしくの意味として取って良いんだろうな、今度は何を移植されたのやら……音は全身から聞こえてくる、まさか全身……いや、それだと単純な話俺がこいつ等の誰かになっている筈だ、それは無い。きっと。

「今度はウイルス、すごいでしょ?」
「普段は体内に取り込まれた水分に同化してて、自分達が近くに居ると音がするの、自分達とおじさんの赤ちゃんが近くに居ても効く様にしたよ、あいつの真似っこ」
「どうかな、嬉しい? うふふ、自分達はとっても嬉しいや」

気が付けば正面に黒、横に白、背後に白、斜め隣に青、と周りを釣り囲まれる形になってはいるが、このまま妙な魔方陣とか使われて異世界に吹っ飛ばされたら泣く。眼鏡を外す、白い子供が両手を畳に突いて俺の顔の位置まで自分の顔を持って来た、俺の鼻とこいつの鼻が当たる。巣穴に戻る蛇の様な動きで座布団にそいつが戻り、多分、青い子の物だと思われる肩に体重が乗った。
今度は唇に、性の匂い無しに無造作に吸われる……そんなに吸っても何も出ない。それなりに重い、そうか、三人分だったな。ぷち、と唇が離れて肌より薄い色の舌で一舐めされる、唇が湿った。座布団に座り直すのが大変そうなのだこれを手を貸してやると、青い子供は「優しいねぇ」と舌を出した、舐め返す。あまり前倒しにすると腹が苦しいだろうから、俺もかなり無茶な体勢を取る必要があった、まったく正面から抱く事も出来ないし、キスも若干横からしないといけなくなってきた、可愛い我が子の為だからといっても主に俺が精神的に大変だ。
特に、強く抱き寄せられないのは。耳元の囁き息が二つに重なって、もう一人増えたのが解った、一人居れば三十匹はなんとやら。俺に実害は無さそうだが迷惑宣言をした三人は、心成しか年相応、いやそれよりも幼くはしゃいでいる様にも聞こえた。うふふ、と座布団に新しく座っている赤い子、今度は悪戯っぽく血の色をした舌を出したので、半分やけくそになってこれも一舐めしてやった。
眼鏡の白い子供が頬を膨らませた、「鼻じゃない方もしとけばよかったなー」……次こっち来たらしてやるよ。ウイルス、とはまた大仰な物を引っ張り出してきやがって、最初から俺を小馬鹿にした嫌味さ無く適度に噛み砕いた説明なのは、他の同居人には無い俺への気遣いだろうか。そうだと思い込むぞ、よし、ありがたい。子が近くに居ても鳴るとは、俺の血や遺伝子にでも呼応している、という意味か。最後の一人、黄色を残して全員集合されてから、奥より聞こえてくる声がはっきりと、何か知性的な物を感じさせて響く。
恐ろしい、不快は不快だが、ずっとこのまま聞き続けていては俺は絶対にこれに慣れる。俺はお前達が何を考えているのか何と無く、最近解る様になってきたが、今度のも何と無く、解る。多分このウイルスはは死人には効かない、「うん、そう」……もう何も言わない、生きている相手にだけ伝わるのだろう、音が鳴れば生きた誰かが近くに誰かが居る証になる。こいつ等はありとあらゆる事が感情任せだが、時折妙に生臭く形を欲しがる、俺がこいつ等だったらこれ程簡単に証になる物も無いのだから、無駄手間をする気分でも無ければ一度はやるだろう。の、割には子供を証だとはしようとしていないのだが。

「俺的には結構迷惑なんだ」

「なんで? 家族が近くに居る証なのに?」
「おじさん、自分達が近くに居るの、いや?」
「繋がってる事って、素敵じゃないの?」

障子から声、金色の髪束で出来た尻尾が障子から覗く、もう隠れなくて良いぞ、いや、そんな偶然歩いてたら出会ったー、みたいな演出はいいから。白い子供が引っ張り出してきた座布団に座ると、心底心配そうな顔をして俺を覗き込む、白く渦巻いた目はそのまま吸い込まれてしまいそうだ。この野郎、俺はいい加減お前達が俺の命を脅かすようなマネはしない、って解ったっていうのに、お前達はまだ解ってくれないのか? そうだとするなら、ちょっと傷付いたぞ。
証、という言葉を聞いて自分の考察が当たっていた事を喜ぶよりも、自分の思考がこいつ等に寄った事を自覚する。クリームを塗る作業を終えた黒が此方を向く、喋りはしないがこいつもまた心配そうな顔をしている。黄色い子供が俺の手を取って自分の頬に寄せた、「信じてない訳じゃ無いけど、あると嬉しいよ?」と、小首を傾げる様子は可愛らしい。痛い、後ろから首掴まれた。「明日はすっごく大変だから、プレゼントなのに」……明日? 十月三十一日……ああ。
俺自身先延ばし先延ばしにして考えないようにしていたが、明日はハロウィン本番、俺もまた無事は済まされないかもしれない日、精神的に。こいつ等はこいつ等なりに俺を元気付けようとしていたのだろう、恐らく、俺が家族というものをとても喜んでいたから。真っ赤な人外色の肌でも、自分自身と緒で繋がった子を抱いて、赤茶の髪を顔に掛けて項垂れる様子は、少し悪い事をしてしまったかもしれない。違うんだ、俺はお前達が何かをした事を怒っているんじゃない、お前達が俺を思ってくれる事はどんな形だって一応は嬉しいんだ……ただ、ただ少しばかり。

お前等と繋がっている時とお前等と他と繋がっている時、別に考えたいだけだ。

「自分の相手と話してる時に野暮が入るのはちょっとな」

「そっかぁ、ありがとう」

あ、落ち葉の季節に花が咲いた。









「でも、それ治せないかも」
「だってそのウイルス、おじさんの中じゃなくって自分達の体液に居るんだもの」
「つまり、自分達の体液が鳴ってるの。おじさんのじゃなくて」

ああ、そりゃ、多分治らない、かも……無駄だろうが、とりあえず今直ぐ風呂入って口では言えない所を、改めて、物凄く神経質に洗う事にしよう。
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