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貴方の言葉と、貴方の言葉じゃないものに救われる [お知らせ]

蟲飼の子のお腹に子供ができました。

実はその子がお腹に宿ってから、もう四ヶ月と二週も経っています。
人数は五人、初産で大変ってレベルじゃないですね。

四ヶ月ですが人数もあって、蟲飼のお腹はもう五ヶ月の大きさで、まあ、胎児一人一人の成長は至って普通なので、胎動をしたりはしていないのですが。現在の子宮の大きさは、大きめのソフトボール五つ分、触って子宮の位置が解りますし、やっぱりお腹が目立ってます。

何故にこんなに時間が経過するまで、蟲飼の妊娠が判明しなかったかというと、
簡単な事、本人が隠していたからです。

別に妊娠した事が嫌だった訳ではありません、蟲飼はただ不安だったのです、その事を誰かに言った結果自分が拒絶される事が。何よりも、他でもないお腹の子の父親であるおじさんにされた時の、身を切る様な悲しみを想像すると。
周りに幸福な例があるのに、バカな取り越し苦労?
いいえ、一番怖かったのは万が一、事故にあって手足を失う事だってその万が一、全ての悲劇は万民に等しくではなく、限られた不幸な人間に万が一から起きて、そして誰かを限られた不幸な人間にする。自分が特別な存在だとは、命の重さ軽さが駆け引きにならない事を知る蟲飼は思っちゃいなかった訳です。

隠す、つもりだったらしいです。出来るなら六ヶ月。
六ヶ月っていうと、一般的に胎児の堕胎が禁止される頃です。
ああやっぱり、蟲飼はお腹に宿った子を疎ましくなんて思ってなかったんです。
そうじゃないとするなら、命の重さも価値としない彼は悩まない筈ですから。
一族の人間も、その事に気がついてなお言わなかった……別に無関心だった訳ではありません、仮に全てをお膳立てしたとしても、最後に決断するのは本人で、後に残っているのは本人自身が乗り越える問題。

つわりで辛い時期も、日に日に女性化してゆく体への不安も、何もかもを誰にも言わないまま今日まで経って……あまりの孤独に耐えかねたか、某件では安定期でもないというのに、セックスをしてしまったり。(一発だけど)流石に飲酒はしませんでしたが)

セックスなんて、ただ性器を擦りあうだけの行為? いいえ、違います。
生殖行為? 当たってはいます。
快楽行為? オナニーでもしてろ、遠く外れています。
セックスという物には、ただの生殖行為というだけではなく沢山の思いと繋がりがある物だと私は思っています、言葉では説明できない部分を体で表現する、いわば究極のボディランゲージ。
蟲飼はそれが欲しかった、言葉でも心でもない、神経に染み付いたそれが欲しかった

その時に心が決まったと思ったというのに、おじさんの心を覗いたというのに、自分の能力の絶対性の薄さを疑って、言えないでいたんですが……それよりも先に、おじさんがそのことに気が付きました。
抱き締めた、前からではなくて後ろから、お腹が圧迫されて苦しくないように後ろから。

もう、言葉はいらなかったみたいです。



蟲飼が妊娠したということは、肉体を共有しているのだから、十六夜も同じ。
肉体を共有して、互いに多少の差はあったとしても根本は同じなので、蟲飼の子供は十六夜の子供であって、その逆でもあるらしいですよ。

彼は妊娠した直後から、おじさんへの報告をしたがっていました……親はいずとも子は育つ、とはいえ親のいない子、親に愛されない子の孤独は計り知れない、そんな物に我が子をしたくはない。何よりも、それで苦しむ人間は他でもない蟲飼でもあって、誰もが不幸になる結末しか待ってないのですから。

昆虫のサガに塗れた彼が、本当に母になんてなれのか、誰もがそんな風に思うでしょうが、なれます。
これは狂気とか、理性とかみたいな簡単な話ではなくて、生物が最初に持ち合わせていた神経のレベルでの話になります。愛は狂わない。
産まれたばかりの赤子は、言葉を介さずに母の愛を理解します。
我が子の待つ巣を襲われた鳥は、我が身を囮に投げ出します。
巣立つ前の蜘蛛の親は、我が身を子供達の餌として差し出します。
そこに理由も種族も無い、太古より薄れる事無く脈々と流れてきた物……それこそが愛情。

ただ、彼にも一つ不安がありました、それは『生まれてくる子の目が一つしか無かったら?』という事です。
別に奇形の子を汚らわしく思って産みたくない訳ではなく、その産まれた子がその先不自由な体で、自分と同じ業を背負って生きなければならなかった時を考えると、どうしても悲しかった。

彼を抱き締めた誰かは言う。
「産まれてきた赤ちゃんの手が幾つとか、目が一個とか二個とか、産まれてみないと解らない……今は産まれてきたその子を抱き締めて、産まれてきてくれてありがとう、って言えるように待ちましょう?
大丈夫、何かその子に大変な事が起きたとしても守ってあげて、一緒に乗り越えればいいのよ。
だって……あたし達親って物は、その為にいるんだもの」

もう、言葉はいらなかったみたいです。



私ももう、言葉にならない祝福の気持ちを此処に記して、今は沈黙をしようと思います。
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