SSブログ

調子を取り戻しつつ何時もとちょっと内容が違うSSS [小ネタ]

するしない

登場キャラ:おじさん 氷室の者 道化師の者 虚の者

考案度:★★★★☆
精神有害度:★☆☆☆☆
(何時もと少しだけ書き方が違います)
(文体その物というより、内容が)







する



俺も聞き齧っただけの知識で、これが本当に合っている物だという断定は出来ないが、アニメやら何やら動く絵を動く物として認識することが出来るのは、その物の前回の動作を記憶して幾つも連続させるからだと聞いたことがある。その内一つでも、これは別の物だと認識すれば、同じ様な物が只管並んでいるだけ、として認識されるらしい。
確か生身の動作も似たような感じだったか、兎に角人はかくも細かく記憶という物を作る。俺も突然の停電等に見舞われた時が恐ろしいので、少しづつ記録はする様にしているが……と、また話が逸れた、この話は置いておこう。俺のミスを回想した所、あの後消えた分を取り戻すべく残業のしすぎて、結膜炎になった事は変らないのだから。

記憶が定期的に消えるというのはよく解らない、一昨日の朝食何を食べたかなんて事は忘却の彼方にすっとんでしまっているが、たった今自分が何をして居たかすら思い出せなくなる様な、著しい記憶の忘却、というよりは欠如なんて物、生まれてこの方体験した事も無い。勝手に想像してみる事は出来るが、俺の想像は白昼夢を見ていた時の感覚で、これとは違うのだろう。
だが、俺の同居人には居るのだ、その記憶がぽろぽろと毛かという程に抜け落ちる、そんな奴が。最近の携帯電話とは非常に便利な物で、インターネットやカメラは当たり前として、テレビまで見れるようになったんだとかで、フリルだらけのドレスを着たそいつはそれをじっと覗き込んでいる。当然、あれは一応今度こそ俺の物ではないから止める必要は無いが、音量を最大にしているらしいくとても五月蝿い。
体を屈めてその小さな画面に齧りついている様子は、格好も相まって相当妙な光景だ。それだったら俺が見ていないのだから、堂々と部屋のテレビを使えば良いというのに、変な所で気を使っているというのか、まったく。日本の携帯電話は外人に受けが悪い、機能が多すぎてややこしすぎるらしいが、俺も全く同感だ。日本人はやりすぎる民族なので、今度は冷蔵庫にでも通話機能を取り付けるのではないだろうか。そうすれば、冷蔵庫に向って口を聞く年頃の娘、という奇妙な光景が出来上がる訳だ。
爆音という程ではないので止めないが、興奮で身振り手振りをつけて見ているテレビ? 携帯? まあ、どっちでもいい、それからは明らかにフィクション臭い銃撃音や、心が折れるような棒読みのセリフが台所まで聞こえてくる。何でも、あれは昨日の夜に録画しておいたアニメなのだとか。とても楽しそうに見ている所、喧しいが見ていて微笑ましくもある。
で、最初に思った疑問になる……聞いた話、こいつの記憶は一度に限られた程度しか持てず、新しい物を覚える度に別の物を外さないとならなくなる為、自分が今まで何をしていたか等、そんな近い行動まで忘れてしまうのたと聞いたが、そんなアニメだか映画だかを嗜めるということは、その度に記憶が追加され続けているという事だろうに。

「あいつ、本当に頭壊れてるのか?」

「当然その通り☆ 当然、あれはボクちんと同じよーに記憶を作れないよっ☆
思う方が逆にお馬鹿さん……w 信用満点、それもヤブ医者のお墨付きぃっ♪」

だからと言って何がしたいと言うことは無い、が、どうしても興味や好奇心と言う物は強すぎる。先程まで、湿気が多くて暑い所為で記憶を保つのが大変、だかと言って十秒に一度記憶をなくしては、部屋の中を右往左往していた程だったというのに、今のこいつは正に何の異常も無いのだ。いや、姿形は完全に人外なのだが。普通正常な人間はリモコンをぶら下げてなんていない。
何と無く口に出した言葉に食いついたのは、仲が悪い事二人、話し相手として見てくれる事は嬉しいのだが、こいつら二人がかち合うとロクな事が無いから勘弁して欲しく思う。片や全身ピンク、片や黄色と黒の縞模様、物の見事に危険色だ二人とも。テレビの音が大きくて、電脳からこいつ等が帰って来た事に気が付けなかった……蜂のパペットの口をパクパクと動かすそれに、そいつは長身を屈めて嘲る様な顔をして笑う。濁った眠そうな目でそれを見るそいつは、完全に覆い被さられているというのに眉一つ動かさない。
その二人の様子に無関心なのは、俺が独り言を口走る原因になった、ドレスの機械姫さま。いざとなった時に仲裁役になってくれる可能性は少ないが、その少ない可能性を捨てたくない、1%の奇跡を信じさせてください。この二人が居る所に俺一人で居るというのは、スラムに全裸の美女に『たべごろv』と書かれた札を下げて放り込むような物なのだと、我が事ながら自覚している。

「たダ、『やれない』って事ト『やれるのにやらない』って事はけっこう似てるヨ。
チミの見立てじゃ千に一ツ、いや万に一ツしか当たりそうも無いシ、こっちでしょ常識的に考えテ」

この二人はよくこうやって小競り合いをするのだが、別に暴力沙汰になる様な事は少ない。だが、明らかに殺気の伴った口喧嘩はとても俺の精神を荒らす、まるで台風でも通ったかのように。電脳世界から同じ入り口を通ってきて、今まで特に大騒ぎにはなっていなかった所、それまでは何もトラブルになっていなかったのだろうが、そこで弾けたらしい。主に、俺の運が。
精神衛生上ありがたい事に、あの二人は現在進行形で何かを言い合っている様子だが、少なくともテレビの音でそれが掻き消されて俺には届かない。何だか、此処からだと詳しく見えないが、黄黒の縞が花の咲いた目を伸ばしているが、それを出来る限り見なかったことにする。「なぁにその目、まるでイモムシみたい♪ イモムシにはしましまはいらないよっ、しましまだけ置いておかえり♪」「ぷーんぷーん、チミが自分で自分の頭皮を剥ぐってんなラ、考えてあげていいヨ」……聞こえない事にしたい、させて下さい。
ただ、二人が言っていた事もまた気になりはする、あいつの記憶というのは人間が1コマ1コマで認識する所、束にして区切っているのなら納得は付く。人間だって認識上は、何々の記憶、として物を単体ではなく映像、束として思い出すのだから。その記憶が束になって出来上がるまで、束が紐で纏められるまでこいつの記憶は抜けたり落ちたり、安定しない訳だ。一括してしか記録出来ないのだから。
俺が此処で何を想像しても想像と憶測の息を出ない事は解っている、本当に知りたいのだったらそれなりに命を賭ける必要がある為、こうやって想像する事位しか自由にはなってくれないもので……横目で見た二人、伸びた目から伸びた蔓が首に巻き付ける体勢になっている気がするが、全力で無視を推す。ああ、よく見ると蔓の根元を指二本だが掴まれている、それは無いか。
やれるのにやらない、この言葉を信用するのなら、それは普通に記憶をする事が出来るというのに、何か自分自身の意思を挟ませてそれをやっていない、という事になる。二つは一見して全く違う事に感じれるが、結局は誰も何もやらない、何も起こらない、という点では全く同じ事だ。言い合いの内容が此方まで飛び火しそうで怖い。くれぐれも、俺に意見を求めようとしないでくれよ……あ、煙草切れた。

「ぷんぷん坊やが背伸びしてる~◇ お前なんて、蛙のゴハンになっちゃえば良いのに☆
パクッ、モグモグー……ヤダぁっ、お腹壊しちゃうっ♪」

「ぷぷーん、その喋り方キモーイ、自分の歳考えないノ? 羞恥心無いノ? 社会不適合者なノ? バカなノ? 死ぬノ?」

飛び火どころか燃えた投石状態、もう聞いて聞かないフリが出来るレベルからは遠ざかっていて。今煙草買ってきてくれとか言ったら、確実に俺は明日には東京湾の水中花になっているんだろう、それだけは御免だ。まあそれでも、俺がその為に外に出る口実は出来たのだから、自体は良い方に転がってのではないだろうか。だが家に帰ればやっぱり二人は居る、家に帰って来たら即寝よう、それしかない。
今更になって気が付く、記憶出来ていないにしても、記憶していないにしても、どちらだって同じじゃないか。何せ、どちらも記憶していない事に変わりはしない、そしてそれを自分で直そうとする位なら、とっくの昔にやっている筈なのだから、ハナから俺がこうやって困った事になっているのも大した意味はない。その上、俺が如何思っていようが、こいつ等はそんな事一々構っていないのだから。
それは行動も同じ事、此処が俺の家であっても、こいつ等が止める気が無かったら当然、小競り合いが止む事は無く俺は布団に潜るしか回避方法は無い。俺も大分人生の九割が自由になっていないとは思っていた為、特にショックとかは無い、いうより、こういう事がよくある度にこうやって考えてしまう。理由は無い、強いていうなら脊髄反射だろうか。生物としての、人間としての。
最初から最後まで何の興味もなさげで、目線の一つすらも合わせ様としなかった全ての発端、妙な記憶構造をしているという事だけは解っているそいつは、立ち上がろうとした俺にちらりと目を合わせると、テレビから目を外して座ったまま、ばったりと後ろに倒れこむ。ぼそり、と呟かれた事は、俺も心の中で何度も言った、言い覚えのある物だ。

「今日は湿気て仕方がありませんの、明後日からがんばりますわ~…」

そう言って、実際やった奴は一人も居ない……ってな、俺を含め。
nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:LivlyIsland

nice! 5

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。