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次からやっと七月! [小ネタ]

虹SSS
唐突な知恵比べと人間の虹

登場キャラ:おじさん 百眼百手の者

唐突度:★★★★☆
精神有害度:★★☆☆☆
(六月26日頃の話)
(すごく唐突)
(ヤマ場? そんなもん便所に捨てた)






唐突な知恵比べ



最近通り雨が多い、梅雨に頭を突っ込んでいるのだかららしいと言えばらしいのだが、一日中続くような雨や、数日間雨続き、といった風な雨の降り方が無く、突然雨雲がやってきては気紛れに地に叩き付け、そして帰って行くというまるで子供のヒステリーの様な通り雨だ。
出来る事なら水不足で断水、とかにならないなら雨は遠慮をしたい所だはあるが、俺が外を歩いていようがお構い無しに降らす上、天気予報も予測出来なく当てにもならない為、非常に厄介。鞄に常に折り畳み傘を入れてあるが、出来るなら全身が濡れない程度の普通の傘の方が良い。だが、肝心のその傘はいざ持ち歩くとなると、思いの他片手を埋めて嵩張ってしまう。
窓から覗く暮れる事が相当遅くなった夕暮れを見ると、今日は如何にかへそ曲がりな空がぷんすかとやりだす前に帰れて良かったと、今にも一雨来そうな鉛色の雲を見ながら思った。窓に水滴が幾つか付いているので、本当に降って来てもおかしくない。とりあえず、この家の中で別に濡れて困らない物は少ない、換気の為に開け放っておいた窓を閉めた。
部屋の中が密閉されると、俺が今こいつと二人きりな事を改めて実感して、湿気とはまた違った方向でどんよりと気分が落ちる。正直な話、俺はこいつが苦手だ……具体的に何処が、という物はない、特に喧しい事も無く、粗相をするような性格でもないのだが、何かが俺を不安定にさせてしまう。悪いな。
もう一つ開け放っていた窓にそいつは寄ると、俺と同じ様に窓を閉じた。こいつも雨が降り始めている事が解ったのだろう、片手には読みかけの本を開いたまま持って、忌々しそうに。もう一つも俺が閉めるとは思わないのだろうか。斑点だらけの腕を投げ遣りに使って、大きな音を立てて窓が閉まる。割れたら如何する気だ。

「虹、が、欲しい」

その場に突っ立ったままのそいつは、まるで窓の外を見ているかのような様子で、ぼそりと、だが俺に聞こえるように明確に言う。俺の知る限りでは虹というのは、空に浮んでいる物で、そう言って手に入る物ではなかった気がするが。虹色の宝石ならあるらしいが、こいつの言っている事は明らかにそれでは無い。
俺に当てられているのならば、何かしらの返事をするのが礼儀だというのは解るが、それにしても返答に困る。此処で相槌を打っても全く適切ではない、だからといって否定でもしようものなら、確実に話は悪い方向へ向って行く気がしてならない
何より、虹が欲しい欲しくないで手に入る物ではない事は、こいつ自信も解っている筈。目の前でまじまじと確かめた訳では無いが、こいつはそれなりに……いや、かなり賢かった筈だ。引き合いに出して悪いが、同居人の一人である中国民族風の奴や、橙色の忍者等とは比べ物にならない程に。
はいそうですか、と空に向って大砲を打ち込んで、それで虹が落ちてくるなら皆やっている。どこか上の空といった風なそいつは、此方を向かないまま……ぬるぬるとした粘液を纏った、頭から突き出た目をこちらに向けた。どうやら、ただの気紛れでは済ませてくれないらしい。

「突然何を……」

「虹、を出せ、虹が、見たく、なった」

口を聞く間も、4本の緑色をした目はにょろにょろと空を動き回って、頭から引き伸ばされた部分からはぬらぬらと得体の知れない、毒々しい緑色の液体が伝う。床に落ちた時が怖い、出来るだけ刺激しなければ、あの液体が増量されることは無いだろうか。そいつま髪の毛が体液によって湿る。
虹を出してくれ。そういえば、同居人達の本分である筈の電脳世界、リヴリーアイランドでは現実世界より一足も二足も早く梅雨が終わって、記念品や記念魔法が配布されているとか。明らかに原因はそれだ、消し炭の様な恨みが行き場の無い場所にぼとり、と落ちた。
こいつ等の梅雨ってのは、勿論湿気が立ち込めて雨が降りっぱなしになる他、そこら辺にある植物が異常成長をして、数千人が摘み取っても無くならないレベルで増える。それを現実に応用すれば、未曾有の食糧問題とか解決出来るんじゃないかとか、そんな事は誰か偉い人間がやってるだろうから無視する。電脳世界だからこそ出来るのだろうが。
にしても、らしくない……もう一度言う、俺はこいつの事が苦手でしょうがない。それでも長く一緒に居れば解る事もあるし、合意する事もある。それでも、こいつがそんな事を言い出す思わなくて、別の意味で驚きだ。いや、暇潰しの為なら命を掛けるって所は、全員共通。
傾いたまま斜めに固まってしまった体はずっと立ち続けるのは不便そうだが、そいつは窓の外の方に体を向けたまま、目だけをこちらに向けて居る。何を見ているのか、いや、目は全て此方を向いているのだから、体だけが窓の方を見ているだけだというのに、俺はどうしてもその様子が窓の外を見ているように見えてしまう。
魔法といった非現実的な技を体得出来るのは、人外は人外でもリヴリー限定らしく、こいつはたしか使えなかった覚えがある。そんな365日何時でも何処でも見放題な虹に価値は感じないが、こいつはそれが欲しかったのだろうか。それだとしても、尚更何故俺に言う。……飼い主だから? いや、こいつ等が俺の事を欠片でも飼い主だと思っているとは思えない。

「無理だって解っているだろ、別の奴になら一発だろうが」

「それ位、解って、いる。
だから、お前、の出した、虹、を見、せろ」

本を持ったほうの手を頭近くまで上げて、やれやれ、という風な動作をしたそいつは、やっと窓近くから離れた。うじゅるうじゅると動く目も、まるで掃除機のコードの様にそいつの元へと戻って、表面に見えているよりももっと酷く、沁みと疣だらけの体をソファーに投げ出す。その様子に俺が座る所を譲る気はさらさら見て取れない。
ただそれでも、目が一本だけ此方に視線を向けていて、何としてもこれを譲る気は無いらしい。外見が悪く無かったならば、自由に曲げ伸ばしの出来る目が四つというのも、かなり便利そうだ。だからといって、絶対にこうはなりたくないが。
そいつの目が俺の目と鼻の先に近付いて、そいつの顔に裂けた針が立ち並ぶそれが歪む。「出来ぬ、のか?」、続くのは詰まった息をそのまま笑い声に捻じ曲げた様な、聞いていて耳障りな笑い声……俺は軽く挑発されているらしい。普段からずっとナメた態度をとられていたが、こうやって明確にされる事も珍しく、ひしゃげた笑い声は変わらずに耳汚かった。
俺が虹を出すとは思ってはいないのだろうが、どうしても我侭を言うのはこいつらしくないが、こいつ等らしい。今日は珍しい事があったということで、折角挑発までしてくれているのだから、少しはそれらしくしてみようか。俺らしくない? こいつもこいつらしくないから、俺だって構わないだろう。
あいつ等が虹を出すには何やらエーテルだかという、未だに科学的に解明されていない物質を使うらしいが、俺が虹を出すにはそんな物いらない。必要な物はそいつの元居た窓、その手前に窓拭きをする為に置きっ放しにしてあった筈。
それを手に取ろうと歩くと、そいつの目がにょろにょろと一本付いてくる。付いてくるのだったら、もっと小動物的な何かの方が圧倒的に嬉しい。体にくっついて見ている方は、大人しく本を見ていて、この一本が無くてこいつの肌が斑でなかったら、まともな光景に見えていたのではないだろうか。酷くてもある程度はそう見えるのだから。

「ほれ、虹」

同居人がしていた窓の拭き掃除を手伝った時、直ぐに用が入って置きっ放しにしていたのが良かった、中身はまだ適度に残っている。試しに降ってみると、たぷん、と適当に空いた空間が残った中で、水が揺れる音がした。
虹は光の屈折によって生まれる。空の虹を取って来いとは一言も言われていないのだから、こんな小学校を通った事のある奴なら誰でも知っていそうな、陳腐な方法でも構わないだろう。所謂、してやったりという奴だ。霧吹きをそいつに向って投げると、俺に付いて回っていた目がピンクの噴き口を絡め取り、自分の方へと持っていく。人間でいう所、眼軸で物を取ったみたいなものだろう、痛くないのだろうか。それよりも、あの霧吹きにべとべととした体液が付いてしまった、どうしよう。
音を立てて本を畳むと、そいつは上着代わりにしていた白衣を脱いで、本の上に被せる。元から想像したくない物で小汚かった白衣だが、その下の服は案外汚れていない。長さの不揃いな指では物を掴むのも難しそうだが、眼軸と詩文の体液の絡んだ霧吹きを器用に取ると、電灯に向って。
俺の視点から見ると虹は見えないが、あいつの目には見えているのだろう。四本の目は空中に浮かび上がる、俺には見えない虹を見ながら、また先程のとも違う押し殺した様な、こいつにしては妙な事に不快に感じない様な笑い声を出して、何度も何度も、それこそ水がなくなるまで。

「これだこれだ、これが、お前、の、虹、か」

そいつは、俺の目の前でずっと飽きる事無く、らしくない笑い方をしながら霧吹きを噴き続けていた。
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