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ありがとう、ありがとう、そしてハロー☆ [小ネタ]

父の日連作(終)
22日.朝日は遅れ昇る

登場キャラ:おじさん 『    』

白度:★★★☆☆
精神有害度:★★★☆☆
(朝)
(ほぼおじさん一人)
(夢のある人は最後まで見ない方が良い)







朝日は遅れ



慌しい昨日が終わって、目を明ければ明日がやって来る。昨日同居人達に執拗に絡まれていた時は、今日まで五体満足で居られる自信が無かったが、今はこの通りに暢気に布団に体を預ける立場で居られている。

布団の中で手を握って、ついでに足の指も。よし、五体満足だと俺が思い込んでいただけ……とか、そういうオチではない。寝ている内に悪戯と呼ぶにはタチの悪い何かをされた様子も無く、安心して目を明けた。見慣れた天井。遮光カーテンで遮られていても、外から入る物は俺の目を容赦無く苛む。
何だかやけに寝覚めが良い日だ、別に起きた所何かある訳では無いが、機能は比較的早く寝たお陰だろうか、丸一日ダラダラと眠り腐っていたのは伊達ではないらしく、慢性的な疲労は大分取れている。
そういえば、真夜中部屋が異常に静まり返っていたのもあるかもしれない。昨日は突然同居人の一人に持ち上げられて、相当適当な作りのガラス細工の薔薇を投げつけられてから誰一人としてやって来る事は無く、飼い猫以外の気配の無い家で眠った。
カーテンに遮られた薄明かりの中、何と無く電灯が黄ばんでいる。いい加減天井を見続け、自分の目を虐める事に飽きてきた為、体に力を込めて上体を起こすが、やっぱり疲労が取れたお陰で余計に力を入れずに済んだ。その割に寝汗が酷い、隣の居間から冷風が製造される音が聞こえないので、その所為か。シャワーだけでも浴びよう。その前にサングラスを。
見ればカレンダーの日付は『六月二十二日』どうやら俺は、本当にあの父の日という名の底無し沼から抜ける事が出来たらしい。クーラーの風を取り入れる為に開けっ放しにした居間への襖、隣の部屋に未だに誰の気配も感じず、違和感を感じる。そうか、まだ誰も帰ってきていないのか。
一瞬、普通のサラリーマンかという風に、酔いつぶれて道端で川の字になって新聞紙に包まっている様子が思い浮かんだが、それはそれを発見して補導しようとした警官の命取りになりそうだと思ったので、想像を打ち切った。そもそも、川の字というレベルの人数では無い。

夏は早くから日が出る、まだ夏に慣れきっていないのか、時計を確認した時俺は驚いた。この部屋の明るさから察するに六時位かと思ったのに、まだ四時じゃないか……二度寝するにも時間が半端で、朝っぱらからため息を付く。
昨日は半分投げ出す形で置いてしまったガラス細工の薔薇だが、その内落としても大事にならないような、同居人の手や目に付かない所に移そう。透明な赤い色は、同じ様に色の無い薄暗い部屋の中では、作りが荒い事が気にならない。人間の認識なんてそんなもんだ。
布団に手を突いて立ち上がると、普段の瞼が眼球に張り付く様な重さが無い事が余計に解って、これから布団を畳んだり何だりを自力でしなければならない事も、多少は気にならない。思えば、あのに同居人達家の事は殆ど任せっ放しだった気がする。……放置して置けば勝手にやってくれないだろうか。
俺の視力は元からそう良い方ではないが、最近疲労の所為かまた視力が落ちたように感じられ、寝て起きた直後等は酷い気がする。うっかり踏んで壊さない様、棚の上に置いておいたサングラスを手に取って掛けた。ふと、指先にサングラス以外の物が当たってそれを確認すると、それの形を目が捉える前、此方の部屋にあの薔薇の花を置いたのだと思い出す。

色味が悪くなると引き換えに像がはっきりとした目に、最初に俺が思った時と同じ印象を持って、しっとりとした輝きを宿した白薔薇の蕾は、立派な満開の白薔薇に咲いていて。夜の内に咲いたのだろう、瑞々しく滑らかな花弁の一枚一枚に躍動感があって、あたりまえだった筈の造花と生花の差を改めて実感した。花瓶の代わりにガラスコップに生けたが、こうなって見ると案外絵になっている気がする。
花屋に売っている物は特に如何とか思う事も無いが、咲いたばかりだからだろうか、コップに巻きつけられた白いリボンも似合う。なるほど、これだったら欲しくなってもおかしくは無い……と、思った所で、あいつ等は別にこの花を欲しがっていた訳ではなかった事を思い出す。同居人達が自分達の予定の隙間を縫ってまでやって来たのは、俺にこの花を墓まで持っていかせるためだった。
墓に持っていかせる為? いいや、たしかそいつ等は墓に持っていけとは一言も言っていない。察する、という事もあるだろうが、その代りの言葉が何かあった筈だ。そう、あいつ等は俺が死んだ親父に花を手向ける事、その事を進めていただけで。理由は結局なんだったのだろう、自分達が家族で居れば幸せだったから……そのお裾分け、これが本心からだったなら、とんだ献身ではないか。
自分がされて嬉しい事は、他の人間にも分けてあげましょう……そんな話、ほんのガキの頃に聞いた覚えがあった気がするが、居間のご時世にそんな事をしたがる奴なんて、本物のガキでもいやしないというのに。俺が嫌がっている事だろうが、普段なら平気でやり出すというのに?
あの時俺は確かに親父に花を手向ける事を、別に悪い事とは思わなかった、ただ、死人に花を手向ける事が、あまり気に入った事ではなくて。あいつ等はその時、花が消えたなら、つまり受け取られたなら構わないか。と、俺に聞いていた。
そして、俺の身の振りに構わず、自分の好きな方法で渡せと言う。小学生じゃあるまいし、天国に手紙を書けば手紙が届く等と信じては居ない。今日は仕事に行くから墓参りにも生けない、昨日だって暑すぎて行く気力を削がれて……そうか、好きな方法で渡せ、か。
切花の良い所は生体美、生物の持つ美しさ。それを邪魔するようで悪いが、棘を避けて茎を痛めない様に、ガラスコップから気化した水滴を払いつつ、それをそっと抓む。好きな方法で、なら好きにさせてもらうさ。

そして俺は、花を天井に向って差し上げると、目を瞑って吐き出した。

「親父、遅れてごめん。父の日、おめでとう」

抓む指が空を掻く。

花が、消えた。




















俺は腹を抱える程、笑った。

「お前何時からそこに居たんだ?」

妙に気配を感じると思って後ろを向くと、そこに立っていたのは白い体をした顔の無いロボット。その手には俺の持っていた花が指先だけで抓まれていて、顔の無い目で俺を覗き込んで居て。ギシ、そいつの体が軋む音がして、関を切った様に家に気配が溢れる、そんな想像が頭を過ぎる。
顔の無い顔だというのに、そいつの顔は焦っている様に見えた。おそらくは、花を取ったら直ぐに姿を消す予定だったのだろうが、あんまり俺を観察しすぎて長居した所、現在に至る……何かだったりするのだろう。俺に向って乗り出した様な体勢が、そうだったのではないかと俺に想像させた。あいつ等同居人達は、最初からこうする事が目的だったのか。それまでは都合良く察する事はで着ないが、あいつ等が言っていた言葉にあまり嘘は無かった、そんな風に思う。
見るからに人工物であることをむき出した指が、俺の前にぴっ、と一本出されて、全く口は聞いていないというのに、こいつは此処で何等かの手段で一日中待ち続けていたのだと理解した。何の為にそんなに長く待っていたんだ。自分もどうして理解出来たか解らないが、何より隣の部屋で何か大きな物が落ちた音の方が気になる、下手をすればシャワーも浴びる時間が無くなってしまう。
出来るならば行きたくない、こういった事があると毎度毎度思うが、行かなければならない。そして、その度に地獄を見ることになる。俺が意を決して隣の部屋に行こうとすると、それの邪魔をする物が……肩に異様に冷たい物が触って、俺の体が俺の意思とは関係無く飛び上がってしまった。
後ろを振り返ると、「無視するな」と言った風な白い巨体。気が付くと、薔薇の花は下のコップに最初から何事も無かったかの様、行儀善く生けられている。もう一つ思うなら、やっぱりこういった花は俺の家には似合わない、逆に似合う花も思いつかないが。
こいつは最新鋭のロボットらしいのだが、流石は鉄の塊と言う事もあって体の何処かしこも冷たく、こうして肌に直に触られると夏場でも冷たくて驚いてしまう。この辺り如何にかならないのか、顔の無い顔が不思議そうに傾げられて、その辺りも如何でもよくなる。

とりあえず、忘れて何か起きる前に言っておいた。

おはよう
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