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あーなたのたーめにくれたもの、みーどりいーろのがまがえるー♪ [小ネタ]

父の日連作⑤
21日.貴方の為の赤い色

登場キャラ:おじさん 影双子

白度:★☆☆☆☆
精神有害度:★★☆☆☆
(深夜)
(イミフは仕様です)







貴方の為の赤い色



夜は深けて行くに連れて静かになっていった、比喩ではなく、本当の意味で。同居人達は俺の食事を作ると、早々に波が引く様に先程までサイレンの如く大騒ぎしていた者も、風呂場の徐々に量の増す湯を観察していた者も、皆何時の間にか居なくなった。そして、今は孤独に俺一人。別に寂しい等とは本当に思わないが、こうして晩酌の準備と夜食を残してくれる所、本当にありがたい。
一日中一服を付いている様な物だったが、更に晩酌で一服付くとアルコールがよろしくしてくれるお陰で、それなりな睡魔が寄って来てくれる。冷蔵庫に冷やされていた何かの佃煮、食べてみて触感が何か植物だったのは解るが、一体何の草だったのだろうか。甘辛い味付けは好みだったが、あんな物他で見た事が無い、暇があったら聞いてみようかとも思う。聞いて地獄を見る羽目になったら困るが。
そういえば同居人達が全員何処かに出て行ってから、俺は自分が一言も声を出していない事に気が付く。特に喋るような用事もなければ、独り言を言う癖も無い、電話も掛かってこないのだから、当然といえば当然だ。試しに大声でも出してみようかと思って、息を大きく吸って、止める。近所迷惑になってしまう。隣に住んでいるのは小さな子二人の親子だったか、他人でも乳飲み子を叩き起こすのは、その後を予測するととても気が引ける。
今この部屋でするのは、エアコンが働いてごうごうと上げる唸り声と、時計の秒針が動く睡魔を誘うようなそれ程度。一通りの後始末を終えて座ってはいるが、テレビを見る気にもなれずにこう座っている自分は、我ながらこのまま死んでも誰も気がつかないのではないかと思う。静かだ、静寂は金。日中、あれ程の不審者が乱舞しているとは、その大嵐の真っ只中にいる俺ですら思えない。
時計を見て現在時刻を知ろうと……自分の視界が一段高くなったのを理解したのは、俺が座っている物が明らかに椅子とか、ソファーとかそういう部類の感触では無くなった後だ。これは何か生き物の、人間の手に持ち上げられている。下を向いてみると、そいつは俺の座った形を崩さないままソファーに立って、俺を両手に掲げている。何でもありだな、お前達。

「うー!」

「どうした?」

更に気がついたのは、そいつが俺の話なんて聞いていないという事で、普段頭から元気に飛び跳ねている花は俺の下敷きになって潰れているというのに、そいつは俺に対して何かしらのアクションを取らない。やる事といえば、俺を持ったまま飛び跳ねている事だろうか……ソファーのスプリングが壊れるから止めてくれ。そんな言葉も聞こえていないらしく、そいつは只管何かに向って興奮している。
ずっとそのままでいる筈も無く、そいつはソファーから飛び降りる。俺の見ている視界の下の方、風圧で巻き上げられた桃色に色々と混ざった髪が広がって、俺はやっとそいつが飛び上がって床に下りたことに気がつく。俺が鈍感なのではない、こいつがどんな激しい動きをしても、何故か俺にそれが衝撃として伝わってこないのだ。普通だったなら、こいつが俺を振り落としてもおかしくない、それ程だというのに。
俺の意に反して視界は目まぐるしく変わり、そいつは部屋中をバタバタと俺を掲げたまま、何時も通りの呻き声を上げる。台所入り口まで走られ、次は寝室前、とりあえず居間から出る気配は無いのだが、俺を放す気も無いらしい。あまりの展開の速さに、俺自身が目が回って仕方が無い、ああ、何でこんな事になってしまったんだろうか? とりあえず、俺の動体視力が周りの大回転についていけず、俺にはこいつの唸り声と鱗だらけの脚が床に鳴る音、その二つしか聞こえない。先程も音は二つだったというのに、なんだ、この落差は。
現実逃避も程々にした頃、突然俺の尻が地に着いて現実に引き戻される。床の感触をこれ程嬉しく感じたのは、生まれて初めてでは無いだろうか。絶対にありえないとは解りつつも、後一晩はあの調子で、夜が明けるまであいつも持たれて振り回され続ける所まで想像したが、それが外れてくれて嬉しい。超人の如く特別頑丈ではない俺の三半規管はまだ目を回しているらしく、俺の視界は元に戻ったというのに、俺の視界はぐるぐると回ったままだ。
壁に掛かったカレンダーが斜めになって、それを見ようとした時に大惨事になった時計も歪んで見える。爬虫類の様な目と、角だらけの体も斜めに歪む。突然投げ出された形のままだった体勢では足が辛い、足を組み直して胡座を作ると、斜めだったそいつもまた胡座の様な形を作る。燃えるような色をした爬虫類の目は、俺に何かを訴えかける様に「うー」と、唸った。引き攣れた肌から鱗が覗くのは何時もだが、最近暑い所為か鱗の範囲が何時もより大きい気がする。この季節になるとこいつは暑さを嫌って、風呂場に勝手に水を張って行水したりしているが、皮膚がこれでは体温調節が難しいのだろう。
しゃばだば……いや、俺が目の前のこいつの動きに音をつけただけで、実際にそんな音がなった訳では無いが、そいつは俺の目の前で太腿をぱふばふと足を動かす。顔には必死の形相。冷たい風が届かないと思っていたら、丁度エアコンの真下に居るのだから当たり前といえば当たり前か。何処からとも無く取り出されたボールペン、それをそいつは掲げるように動かしたり、軽く俺に向って投げつけたり、その度に唸り声を上げなが奇行に走った。
俺は当然理解出来ない。投げられたボールペンを受け取ってみたりしたが、怒られる。いっそ素直に訳が解らないと言おうかとも思ったが、こうまで熱っぽくされるとそれで落胆された時、どうにも良心が痛む。また辺りには二つの音、こいつの呻き声と、手振りをする度に肘から生えた角が空気を切る音。今後のことを考えていると、更にもう一つが加わった。独特の現実の音とも電子音ともつかない、電脳世界と現実世界が繋がる音。そして、バタバタバタっと深夜に似つかわしくない大きな足音。その音を聞いた時、鱗だらけの肩がビクッ、と跳ねて、そいつは突然立ち上がると俺に掴みかかろうとする。どうやら、俺をまた持ち上げる気らしい。身構える。

「うーーーーうー…」

「もうもうもう、時間時間時間時間、タイムアップタイムアップ、さぁいこうさぁいこう、さぁさぁさぁさぁ」

「……ほら、何かお迎えが来たみたいだ」

間に割って入ったのは、ひょろ長く、人を呪わば穴二つと言うが、どれだけ人を呪ったんだと言いたくなる文字通りに穴だらけ体をした、こいつより大きな弟。俺を持ち上げられた無かったそいつは、何度も何度もその手を弟に遮られながら伸ばして、悲しそうに唸る。ああ、やっぱり俺が何か悪い事をしたという訳では無いのに、どうしてもこの光景は良心が痛む。まあ、手を伸ばされた時抵抗しようと身構えたのは事実だが。
そいつは案外諦めが早かった、呻き声が唸り声に変わると、掴めなかった両手をだらんと垂らして、元気なくしょんぼりと頭を垂れる。ずっとびよびよと動いていた頭の花も、同様に元気無く垂れて、一枚花弁を落とす。落として平気なのか? 弟までその様子に悲しそうになるのを見て、非常に声が掛け辛い。声にならないなら何か行動しかない、屈んで膝を着いたそいつの肩を叩こうと腕を伸ばすと、向こう側まで貫通した目が突然此方を向いた。一瞬、頭が180度回転して様に見えたのは気の所為か。
相変わらずのアルカイックスマイルを顔に貼り付けて、そいつは俺の肩を二度、三度とポンポン叩く。別にそのまま俺を連れ去ったりする気は無いらしく、まだうーうーと唸っている兄を宥めようとしているのか、兄の頭の花を鷲掴みにした。本当にその方法で宥めていると言えるのだろうか、だが、本人達にはか伝わらない物がある様で、まだ多少元気が無かったものの、そいつはうーうーと唸りながら持ち直した。何時の間にか散ったはずの花弁が元に戻っていたが、床に落ちた花弁はそのままなので、生えたのだということにしておく。
白い服のポケットから取り出されたのは、赤い色をした何か。包み紙を開ける銀紙のひしゃげる音がして、その中から更に鮮やかな色をした飴玉と、濃い苺の匂い。背中越しでよく解らないが、呻き声が止んだということは機嫌が元に戻ったのだろう。弟が飴玉を食べさせようとする、その指にまるで餓えた魚かと思う勢いでそいつが食いついたのが見えた。そのまま指を放さない、弟が困った顔をして此方を向く。それでも指はそのままそいつは飴玉の苺味を堪能する。食べている最中もうーうー言っている辺り、別にあれだけ唸っていたすらといって、機嫌が著しく悪くなっていた訳では無いのかもしれない。
やっと指が開放されて、そのベタベタになった指を自分の白い服で拭く。ところで、こいつ等は一体何処へ行く気なのだろうか。今日はどうやらこいつ等は何か予定があるらしく、それぞれが何か予定の合間を縫って俺に無駄なちょっかいを出してくれているらしいのだが、こいつ等もその内なのか、それにしては服装が何時も通り過ぎる気もする。白いシャツで色の付いた物を拭いた所為で、シャツに薄赤い染みが出来てしまったが、そんな事は何処吹く風と言った風な弟。不意に、俺の胸に何かがぶつかった。

「それはおじさんの分それはおじさんの分それはおじさんの分それはおじさんの分、ですですですです」

「おー…、これは誰かにくれてやらなくて良いんだよな?」

ぶつかった物を確かめると、それは赤い薔薇……の形をした、ガラス細工だろうか。手に取って見ると、ひんやりとした感触の中にそれなりの重量があって、よく見ると赤いガラスは所々濁っている。更によく見ると、細工の一部が重なってしまって、葉の部分になる筈の緑が花に混じっていて……俺の膝に落ちたお陰で割れなかったのだから、もし割ってしまったらこいつは一体如何する気だったのだ。とりあえず、掃除をする気は無い事は確定済み。
薔薇の花には一日掛けて酷い目に合ったばかりなので、つい警戒してしまう。これが新たなるトラブルの引き金になりかねない。当人は俺に振り返る気も無いらしい……妙な文様の走った髪が突然手で割り開いたように割れると、その奥から貫通した穴が曝される。後ろに見えるのは、そこから俺の顔を見ている爬虫類の目。何故だか俺は、その穴越しに二人分の視線を感じて、そいつの髪の文様よりも妙な身震いをしてしまった。
貫通した穴の向こうで相手の爬虫類の様な目と俺の目会うと、そいつは本当に無邪気に笑って、自分の片割れと片割れ同士でしか通じない言葉で話し始める。こうなると一時間は二人の世界に入って帰って来ない、後は勝手に何処へなりと行くのだろう。俺はそれをぼんやりと聞きながら、俺はもう用済みになったのだということに気が付いて、とっとと布団の中に入る事にした。このガラス細工も適当な所に置かないと、どうやらそう良い作りの物では無い様なので、今度こそ割れてしまいそうで。足を解いて、膝に力を込める。

「そうそうそう、もう祝う側でももう祝う側でももう祝う側でも、祝われる側でも祝われる側でも、きっと嬉しいきっと嬉しいきっと嬉しいきっと嬉しい」

次の瞬間、瞬きするよりも早く二人の姿は消えていた。時計の秒針が動く音が暫く途切れていた気がする。突然興味を取り戻させられる事はよくあった。だが、今度のは一言だけ、誰の言葉だか解らない言葉が混じっていた。
『とりあえず、忘れられてないのだから』
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