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二時間は手を抜いてますです [小説]

☆鬼の首プリ~ズ☆

登場キャラ:おじさん 不思議の国 演出係の人

平和度:★★★☆☆
精神有害度:★☆☆☆☆
(特に何事も無い)
(だがおじさんに確実な実害があった)
(二時間ちょっとの間に何があったかはご想像にお任せします)





プリ~ズ



誰かが眠っている、俺の衣装部屋を兼用した寝室の中、俺の布団を敷いてそいつは気持ち良さそうに寝息を立てている。勿論断りは無い、俺は今仕事から帰って来たばかりで、そういった電話も一切無かった。
とりあえず……眠った赤子を起こすような真似をする事はしたくないため、足音を立てないように日常生活を送ろうと思う。寝た子が起きぬ内に。
特出したような事はその後も無く、ずっと静かなまま夜が深けて行く。少し悩んだが、同居人の誰がが使っていた入浴剤も使ってみた。心なしか体が何時もより温まった気がする。
夕食は、また誰かが作っていってくれた様だ。今日のメニューは親子丼、最近丼物が多い気がするが、こいつ等の作る飯は意外に美味い。これがあるから……追い出す理由に困る。ついでに洗濯掃除してくれるのも、言い訳に困る。
晩酌もとても平和だった……起きられては困るので、テレビの音量を絞って特に見たいチャンネルも決めず、適当に過ごす。買い物もあいつ等がやっている、俺の金が減っているが大きく減らない辺り、あいつ等なりに節約をしているのか?
あいつ等が居ない俺の一日は恐ろしく淡白で、もう早いが睡魔が俺を誘う。それに逆らう気も無いので、そのまま眠ってしまおうとしたが、問題は布団にあったことを思い出して、現実を直視する。

ぴゃ~ぴゃ~、とでも形容するべきだろうか、調子外れな笛を吹くような、そんな寝息を立てて気持ち良さそうに眠っているのは、頭に兎の耳を付けた、ぎょろりとした大きな目が顔の半分を占める同居人。肌は薄くだが緑色をしていて、ぬめる様な光沢を持っている。
正に蛙兎とでも形容されそうなそれは、普段ならこのぎょろぎょろした目を忙しなく動かし、口から訳の解らない言い回しの罵詈雑言を垂れ流しにしているのだが、眠っているこいつは一部分だけ白い手の平をぎゅう、と握り。生理的嫌悪感を呼びそうな肌は、血圧が下がっている所為か何時もより白い。体の周りを飛んでいる文字列も大人しく、相変わらず全く俺には読めそうも無い。

「こうしてると、案外可愛いな」

「ゲロロ、ゲロゲロ~…聞いちゃった、聞いちゃったウサ~☆」

しまった、時既に遅しとはこういう時に使うのだろう。ぎょろぎょろとした目は此方を向いて、眠っていた時の静けさがまるで嘘の様に動き出して、俺を嘲り笑っている。俺も何でこんな事を言ってしまったんだ、無意識、今はその無意識を殴りたい。
蛙兎は文字通り妙に薄い体を、ゆらゆら空のゴミ袋が揺れる様な間接を丸無視したとしか思えない奇怪な立ち方をさせて、あっという間に俺の目と鼻の先に立つと、まるで鬼の首を獲ったかのようないやらしい顔をして、俺の頬を妙に広い両手の平で挟んでぐりぐりとしだす。
頭の兎の耳が揺れると、そのいやらしい顔も一段といやらしくなって、年頃の娘が髪の毛を弄る様に頭の釘を弄りながら、爪先を床に向って突く様に何度も動かした。
手を振り掃おうとすると、「おおっとウサ☆」とまた神経を逆撫でするような、わざとらしい反応をしながら、まだ立っているのか、跳ねている、踊っているのか、どれとも付かない様な多分こいつにしか出来ない動きをする。
指で銃の形を取り、俺に向ってそれの引き金を引く動作をする。口で銃声を言って、また何が楽しいのかすら此方まで解らなくなるようなバカ笑いをすると、そのまま何度も引き金を引く動作をする。バカ笑いのし過ぎで、途中何度も息切れと咳をしていたが、それでも笑っていた。

「お前……起きてたのか」

「ずーっと、おじさんが帰って来た時から起きてたウサ♪
おじさんがノ~コノ~コ、亀と接戦をしてる間、ウサはとっくのとんまに起きておじさんを見張ってたんだウサ!」

頭の上に花を編んで作った物らしい冠が乗せられ、こんな時間に近所迷惑な事にクラッカーが三つ纏めて鳴らされる。一体何処にこんな準備を……は、もう気にしてはいけないのだとかなり前に無理矢理悟らされた。
突然俺の手が、俺より大きな手に取られる。こいつの手らしいそれは、背の高さに不釣合いに大きかったが、今日に薄っぺらく、手という感じがしない。体温の低さがそれを増徴させているのか、何かそういう加工の施された布の様に感じてしまう。
そのまま子供がするダンスのように、両手を握られたまま回転させられる。目の前がの景色がカラフルに見えてくる程回されながら、何処からとも無くノリノリな音楽が鳴った。クローゼットの所に、ちらっと白いフサフサした物が見える。ああ、お前等が今回の演出係か。
亀と接戦、遠回しに『遅い』と言いたいんだろうか、ストレートに言われるよりストレスになる言い方を、こいつは一挙手一投足に全力でぶち込んでくる。多分、俺がいる時は俺をからかって。俺がいない時は、俺に言う罵詈雑言を考えているのだろう。
すると、突然さっきまで超ゴキゲンと言った風だった顔が変わって、唐突に俺の手が放される。打って変わって場に流れるのは、時代劇の剣劇中に流れそうな、今にも障子に血飛沫が飛びそうな音楽。クローゼットからは、いい加減黒いのまでちらちらしている。狭いのか。

「あれ? あれあれウサウサ? ゲロ?
おのれ……おじさんめウサ! ウサの頭を盗んだウササ!?
返答によっては万死に値するウサ、磔獄門、此の世の痛苦という痛苦をグ~リグリモ~グモグ味あわせてやるゲロ!」

「お前達じゃあるまいし、そんな超人的な真似出来るか」

心底不思議そうな顔をする蛙兎、首を肩ごと大きく傾けて全身で疑問を浮かべている様子は、片方に大きな荷物を乗せられ天秤の様で。もう片方にクローゼットの中身を乗せて吊り合いを取る妄想を脳内でするが、それよりも重要なのはこいつが何か俺に言い掛りを付けている事だ。
とりあえず、俺にこれ以上危害を加える様子は無いが、まだ何かあるとも限らないので用心する。こいつなら、出会い頭に大爆発を起こしたり、そのままアフロヘアーになって生還ー…とかしても何の違和感も無い。
体の周りにぐるぐる回っている文字列が物凄い勢いで動き回っているが、何か考えているのだろうか、頭の釘が心なしかぶるぶると震えていて、そのまま抜けてしまいそうだ。抜けた方が良いんじゃないか?

「じゃあ、じゃあ何でウサ、おじさんが何て言ったか覚えてないんだウサ?」

「そりゃお前……それはお前が寝てたって事だろ?」






「ウサ♪?☆v」

何と言うべきだろうか、その顔は俺が知っているどの感情の表情よりも、今世紀最大の疑問符を浮かべて固まっていた。
この直後、「ならウサが飽きるまで言うゲロ!」と言われたのは、俺自身予測していた事なので、あまりダメージにはならなかった。睡眠時間が二時間程……いや、それ以上減ったが。
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