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SSS:=ドS紳士 [小ネタ]

本日七草の日ということで、七草に関係ない七草SSS斯いたウェーイ!
久しぶりに書いたら、何時もの数倍時間掛かったよ、ウェーイ!!

七草SSS
無情息災をお祈りします。

登場人物:おじさん 薄命の者

ほのぼの度:★★★☆☆
精神有害度:☆☆☆☆☆
(特に意味は無い)
(描写でちょっとだけ、他家族もドーン)





同居人の一人である少女が、何時もの振袖姿以外で現れる事は、自分にとってとても稀な事だった。
いや、それ以外の服を着ていない訳では無い。寧ろ彼女は衣装持ちに感じる。
着ている振袖は素人目から見て何時も違ったし、眠る時は同年代の子にありがちなパジャマじゃなくて、古風な仮衣を纏って眠っていた。
それが今回は何が楽しくて、緑色の網なんか着ているのだろうか。着ていると言うよりは、羽織っているに近く、少女は俺を見上げると、覚束ない足取りで此方にやってくる。
どうやら、上から羽織った網は重くて体に絡まるらしく、よく見ると足に何重かに丸まって、網溜りが形成されているという有り様。
これは……仮装なのだろうか。今日はハロウィンだっただろうか、あの悪夢のハロウィン。思い出したくも無いあの魔の日は、たしか数ヶ月前に終わり、まだ半年以上も間を空けていた筈。
そんな少女に全力を使わせるのも忍びなく、此方から歩み寄ってみせると、少女は一瞬つんのめりそうになりながら、上目遣いで俺を見上げる。かわいい。俺はロリコンじゃない。

「随分と、変わった格好をしているみたいだな」

「あ……おじさん、おはようございます」

少女は日に当たって輝く青い髪をふわりと揺らせて、俺がすっかり忘れていた日常的挨拶をする。
その様子にはなんら不自然なことは無く、何時も通りの礼儀正しさと、少々臆病な程の大人しさで、俺はそれに続いて挨拶を返した。
この緑色の網に関して、俺は何か言った方がいいのだろうか。寧ろそれを望まれているのだろうか。いや、本人が満足している事なら、何も言うべきではないのかもしれない。
あまりにも日常に溶け込みすぎたそれが、まるでその事に異常を感じる自分自身に異常があるかのような、そんな錯覚を覚える。
今更異常になって困る事は無いが、日常生活を送れなくなるような社会性の欠如や、人格の破綻、精神の崩壊等は避けたい。
少女はまた少し俺に近付くと、俺の手の親指を軽く握って、何かをぼそぼそと小さく言い出した。
この少女にしては珍しく積極的な行動だ、何時もなら宅急便が来ただけで、押入れに閉じこもって長くて数時間は出てこないというのに。

「えっと……あの、ほとけのざ」

「なんだ?」

「あの、今日のちーは……ほとけのざで……」

ほとけのざ。
そう言われて思いつく物は、春の七草とかに入っているらしい、葉が地面に向って円形に広がる、あの野草。
自分はもう数十年以上実物を見てはいないが、実家に住んでいた頃は見た覚えがあった。その実家に数十年以上帰っていないからこそ、それだけ長きに渡って見ていないのだが。
小さな手が、繋いだ俺の手を。正確に言えば親指を、触り心地の良い手できゅう、と握る。

「今日は……ななくさの日だから」

七草の日。一月とやたら達筆に書かれ、雪景色の描かれたどこぞで貰った壁掛けのカレンダーに目を移すと、同居人が律儀に付けた赤い×印が、七日の所まであった。
本日は正月七日、そういえばそんな行事があったと、なんとなくぼんやりと思い出す。
春の七草と言われる野草を粥の中に入れて食べ、無病息災を祈るだか、そんな内容のヤツを。
と言う事は、やっぱり少女がしているこれは七草の一つ、仏の座の仮装なのだろうか。それならそんなことを考えた奴は、そんでもなくマニアックな趣味を持っているのだな。

「だから……あの、おいしく……たべてね」

食べる。その単語は彼女にとっては、本当に純粋で物理的な意味が篭っている。
そういえば、彼女の体はそういう妙な体質で、体を食べられる事を本人も望み、それに耐えうる耐久性を持っている事を、最近忘れていた気がした。
つまりこれは、最近自分を食べようとしない俺に対する、一種のお誘いなのだろうか。
彼女の体はとても甘く美味い。だが、人の体をホイホイと食べられるほど、俺は精神が太くないので、結果的にはその事は避けていた。
だが、ここまでされては一口位は食べなければ、とても失礼な気がする。女がめかしこんで来た時は、似合っていなくても似合っているという様な、そんな無言のマナーだ。
俺は手を伸ばして、俺の顔を映している大きく黒目がちな目を覗き込み、とても食べられる物とは思えないような、さらさらと手触りの良い髪を撫でてやる。

「解った、じゃあ何処を食べれば良いんだ?」

その時、少女は笑った。
無邪気というには、少々邪気の混じりすぎたような、そんな顔で。

『何処ってか、全部食べてよ。 おじさん』

振り返る。その事を全力で拒否する首を、精神力で叩き伏せて、背後を見る。
そこに立っていたのは、頭から大根の葉っぱとか、ぺんぺん草みたいなのをくっつけた白白黒とか、そのほか色々計六人。いや、なんかもう色々関係ない人も沢山。
身に付けている物は、おそらく春の七草に由縁している物なのだろう。春の若草の匂いが良い匂いだが、この状況はとても喜ばしくない。
それより、なんの関係も無い、七草に縛る訳も無くただ集まっている同居人もいる。本当に暇を潰すためだったら、何でもやるんだな、こいつら。
握られていた親指の方を見ると、少女はまだクスクスと笑っていた。

「おじさん……七草粥は、全部入ってるから……七草粥なんだよ?」

ごもっとも。
そう思った瞬間、俺の背を、大凡小さな少女とは思えない様な力で、彼女は無慈悲に有象無象の暇人の群れに叩き落す。

今更ながら、この計画は彼女が首謀だったのかと考えた。
邪気の篭った微笑を浮かべる少女は、とても残酷で無慈悲だというのに、とてもかわいらしかった。

こいつらは、俺と遊ぶつもりなのか。俺で遊ぶつもりなのか。
本当に、それのためだったら何でもやってみせる。

無病息災どころか、明日まで俺は五体満足でいられるだろうか?
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儚空 未羽衣

あけましておめでとうございます!
ご無沙汰しております。

昨年は大変お世話になりました!!


今年も我が子共々、仲良くして頂けると幸いです(´ω`*)
by 儚空 未羽衣 (2009-01-08 17:46) 

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