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中秋の名月SS:金の土 [小ネタ]

バーカ、中秋の名月はとっくの昔に終わったって?
違うねっ! 中秋の名月は俺たちの心の中で生きているんだ!
新暦では21日が中秋の名月なので、今日は新キャラ二人のSS書きました、勿論二本立てです!!
因みに、次回で敬老の日SSは最終回です。



中秋の名月SS
銀の土

登場人物:おじさん 名無し

ほのぼの:★☆☆☆☆
精神有害度:★☆☆☆☆
(中秋の名月二本は、此方から見ることをお勧めします)
(筆者はほのぼののつもりで書いてます)




銀色の土



「何喰ってるんだ?」

連日連夜の敬老の日ラッシュ、それから目が覚めると、目の前で刺青人形が息を吸うように白い何かを貪り食っていた。
何だあれは、この刺青人形は火を扱えないから、あれは新しく調理して出来た物ではないと思うのだが、あんな物を冷蔵庫に放りこんだ覚えが無い。
話し掛けられたのに気が付いた刺青人形は、関節同士をキリキリ鳴らす様にこっちを見ると、またあの妙な笑い方をして、風邪に患かって咳をする様な笑い声で笑った。
当初はなんとなくこの笑い方が気に触った気がするが、徐々に慣れればなんと言う事も無い、どんないやらしい笑い方でも、笑い声で人を殺せる訳でもない。
刺青人形は立ち上がると、自分の手に持っていた物を俺の鼻先に突きつける様に見せ付けた。
見せ付けられた白い何かは、あまりに接近しすぎたせいで逆に全体像が見えなくなったが、どこか懐かしい様なもち米の匂いと、微かな甘い匂いがする。

「ゲヒッゲヒッ、月見団子…でゲス」

ああ、何時の事だったか、この前生活雑貨を買いに言った時に、月見用のなにやら色々を売っていたな、あの時は自分に関係の無い事だと全く無視して素通りしたが、同居人の誰かが月見でもするつもりなのか。
それだけ言うと、刺青人形は元の場所に戻って、また憎き親の仇と言わんばかりの勢いで月見団子を食べ始める。
その有り様ときたら、口に入れた団子の三つに一つは噛まないまま丸呑みにするせいで、何度か喉を詰まらせ、近くに置いてある水の入ったペットボトルをこれもまた物凄い勢いで飲み干す。
ちゃんと噛んでいる団子も、噛み足りないせいで喉の奥に詰まるらしく、結局は噛んでいるもいないも同じ事、何度も何度も咳き込んで、逆に己が憎いのかと思わせるように食べる、食べる、食べる、飲む。
このままでは何時か団子を喉を詰まらせて死ぬのでは無いだろうか、人形のコイツが喉を詰まらせて死ぬと言う事があり得るかどうかは解らないが、仕事から帰ったら部屋で同居人(子供)が死んでいた、となると恐ろしく寝覚めが悪い。
いや、コイツなら死んだ後も化けて出て、もう二度と死なないことを良い事に、饅頭寄越せ、だの、酒寄越せ、だの夢枕に立って騒ぐのではないだろうか。

「そんなに喰って平気なのか」

刺青人形は、此方を見ると、またにぃぃぃぃっと笑う。
当初、こいつがあまりに良く笑うのを見て、笑っているのには何の理由も無く、爪を噛むとか首を傾げるとんと同じ癖なのだと思っていたが、最近になって、コイツはコイツの価値観で面白い物があって笑っていることを知った。
まあ、それでも何が面白くて笑っているのかも解らない上、理解出来ないのだが、理解しようとも思わないおかげで、今の所何事も無くどうにかなっている。
もう一度話し掛けてから十秒程経って、刺青人形はやっと月見団子から手を放す、そんなに急がずとも俺は盗らないって、それとも俺がそんなに喰い汚く見えるのか?

「平気でやんす、これは明け方に何方かが作った物のあまりもの、残され物ォ……、供え用の月見団子は他にあるでゲス」

つまり、俺が眠っていた内に同居人の誰が帰ってきて、月見の準備をして居たと言う事が、要点を纏める程細かい事でもないが。
因みに俺は、同居人に俺の家の鍵を渡しては居ない、昨日も(日を跨いでいたから今日だが)戸締りはしっかりと確認したから、鍵は閉まっていた筈。
いや、今更あいつ等が勝手に家宅侵入しようが、何をしようが驚く事ではない、別に宇宙人と言われても、もう驚かない。
とりあえず冷蔵庫を確認すると、中からもち米の匂いが漂う、綺麗に丸められた団子が仲良く並んでいた。
ゲヒゲヒと笑う刺青人形は、コレに手をつけても良かったが、手を付けるなら自分も地獄の門に手を付ける覚悟が必要だから食べなかった、そう言って更に愉快そうに笑う。
これを作った誰かは、自分の失敗した分をこの刺青人形に食べさせて処分しようとしていた訳か。

「あ、旦那ァ、コレはあっしの物でやんす、やらねぇでゲスよ」

一瞬、刺青人形の変な笑い声が途切れると、刺青人形は団子の皿を自分の背に隠して、もう一度、今度は顔に張りついただけの愛想笑いみたいな物を浮かべる。
子供の顔に大人の愛想笑いなんて似合わない、別に隠さなくても盗らねぇって、そこまで隠されると逆に盗ってやりたくなるぞ。
コイツがあんな急いで団子を食っていたのは、誰かに盗られる前に全部食いきるつもりだったのか。
今までどんな生き方してきたんだ、まあ俺には関係が無い事し、今のコイツにも多分関係の無い事なんだろうが、多分もう、それこそ癖になっちまってるんだろう。

「いらねぇさ、お前が勝手に喰えばいい」

そもそも、そこまで俺は甘い物は好きじゃない、嫌いと言う訳では無いし、疲れたときに食べるのは好きだが、年中食べると言うほどでもない。

「旦那ァ」

「何だ?」

「旦那があっしの事を『いやーん、大好きー』って言ってくれやしたら、食わせてやっても……いいでゲス、ゲヒヒ」

少し間延びする呼び方と、途切れない笑い声、ほんの一瞬刺青人形の糸目が光って見えた。
何考えてるんだコイツ、いや多分何も考えてないな、絶対。
それとも、もしかしたら自分は試されているんだろうか、こんな俺を試した所で出る物といったら小銭程度しかないと言うのに、良く解らない。

「随分気色の悪い愛情表現だな、オイ」

「ゲヒヒヒヒヒヒヒヒ……あっしも今言うんじゃなかったと、ゲヒヒッ、後悔してるでやんすよ……ゲヒッ」

刺青人形は満足そうに笑う、その満足は俺がコイツのお気に召した答え方をしたからなのか、自分が賭けに勝って俺が自分より格下に見えたからなのか。
まあ、どちらにしても俺には関係ない、思わせたいなら勝手に思っていればいい。

「おい」

「ゲヒッ?」

「いやーん、大好きー」

「…………」

「………………」

「ゲヒヒ、ゲヒヒヒヒヒヒ、流石は旦那、子供からも容赦なく毟り取る姿勢、感服でやんす!」

「いや、いい、俺も今やるんじゃなかったと後悔している所だ」



ただ、一方的にやられ続けるのは嫌いなだけだ。
今回は…ドローか。

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