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中秋の名月SS:銀の水 [小ネタ]

そう言えば今年の満月は、自分の住んでいる地方だけかもしれないのですが、赤に近いオレンジ色だったんですよ。
そりゃあもう綺麗だったので、写真にでも撮って置きたかったのですが、生憎のカメラ不在、携帯は持ってない……随分珍しい物を見ました。

一日にSSとは言え、プロットから何から無い状態で二本書いたもので、へっぽこ小説書きの自分はもうヘロヘロです。
こんな風に、物を書いた後の虚脱感を感じるたびに、プロの物書きさんを尊敬します。



中秋の名月SS
金の水

登場人物:おじさん aaaaa

ほのぼの:★☆☆☆☆
精神有害度:★☆☆☆☆
(中秋の名月二本は、此方が後編です)
(筆者はほのぼののつもりで書いてます)




金色の水



「風流ねぇ」

俺の隣で女物の浴衣を着た少年が、そのセリフを言うには不釣合いな高い声で、そんな事を呟いた。
仕事帰りにばったりと出くわしてしまったのが運の尽き、あれよあれよ言う間にこの通り月見につき合わされている。
月見が嫌いな訳では無いが、俺はコイツの事が苦手なのだ、と言うより俺は喧しい奴が嫌いだ、特に女の喧しさは嫌いの極地に入っているのだが、コイツは外見が少年でも中身が女なのだ。
子供なら平気なのたが……あ、いや、同居人の一人の灰色頭と一緒に月見をするよりは、数百倍はマシな気がするが、試した事が無いし、試す気も無いから解らない。
食べる用に置かれた月見団子に手を付ける、美味い、何処ぞの料理評論家では無いから、そんなに詩的な表現ばできないが、この月見団子は少なくとも俺の味覚の気に召したらしい。
これは日中、飲み込むように食べていた奴の気持ちがわからんでもない。

「そうだな」

俺の外せないサングラス越しから見ても、空に浮ぶ月は明るい、煌々と冷たい光を放つ月には雲も無く、風も無く、ただ物言わずに月だけが輝いている。
他の星も、本当は輝いているのかもしれないが、この大都会の汚いスモッグに隠されて欠片程も見えない。
少年は俺の方を見ると、少し気だるげに、それでも少し目を輝かせて笑って見せる、同居人を引き合いに出さなくても笑い顔だけは幾分かマシなんだがな。
何だか嫌な予感がするが、俺にはこれを回避する術が無いため、諦めて話に耳を傾ける、もし聞かないで空返事で済ませようとしたら後が大変だ。

「ねぇ、アタシ魔法の言葉を知ってるのよ」

「リヴリーだったら当たり前だろう」

「違うわよっ! デリカシーの無い男ね!! 少しは空気を読みなさいよ! このバカ! 最低! 愚民!! 信じられないわ! このどうしようもない不能!!!」

少年は激しく地団駄を踏んで、俺に次から次へと罵倒をぶつける、一体何処からこんなに大量の罵りの言葉が沸いて出るのやら。
空気読まなかった事は謝る、だがそこまで言うか?
それから、俺は不能じゃない、断じて、そう言ってやろうかと思ったが、言ったら今度こそ数時間に渡って続きそうだから止める。
その時の第一声は多分『変態』だろうな、あまりに罵られすぎて慣れた。
こういう時は言わせたい様にしてやるのが、俺の経験則からの回避方法だ、こういう手合いは人を怒っている時は自分で何を言っているか解らないし、下手に反論すると大参事になりかねない。
数日前に同居人の一人と、ゴーグルに傷をつけただか何だかで喧嘩をして居たが、互いに激論を飛ばした後に部屋が台風の被害に合ったのかと思われるほどの、殴り合いに発展した。
本当に俺としては止めて頂きたい、掃除するのも同居人達のルールがあるらしく、勝手にやってくれているのだが、帰ってきて部屋が滅茶苦茶になっている時のゲンナリ感は拭えない。

「…………」

「反省しなさい!! このハゲ! ……月をアンタにあげる方法よ」

やっと罵倒が終わると、少年はハァハァと息切れしながら、当初したかった会話の続きを始めた。
大切な事だから何度も言う、ハゲじゃない、俺はハゲじゃない、俺がハゲの定理に当て嵌まるなら同居人達は全員ハゲだ、このハゲと言っている奴もハゲな上、全世界の人間がハゲだ。
俺がハゲになるなら、お前達との生活や仕事で溜まったストレスから来る、十円ハゲだよ。

「は?」

一瞬何を言われたが解らなかった、月を他人にくれてやる方法?
カップ麺の懸賞で、月の土地が当たる懸賞があったが、その権利書でもくれるのか?
すまん、冗談だ、自分でスベッた事は解るから、何も突っ込まないでくれ、本当に最近心の中で会話する事が多くなった、同じく心の中で弁論する事も。
その原因も、理由も、同居人達に関係があるが、心の中で何を思っても普通の他人には解らないから、強制的に直さなくても平気だろう。
とりあえず、在り得ない幻覚が見え始めない限りは、無視する事にしている。

「ちょっと前に見た映画でやってたのよ、アタシがあの月を指差してアンタに『あの月をアンタにアゲル』って言ったら、月はアンタの物になるってヤツよ」

指差された月を見て、俺はコイツが俺に物を言っているのだと解った。
ああ、その映画は暫く前に見たような気がする、椅子に括りつけられて、半ば強制的に白白黒兄弟の映画鑑賞会に付き合わされた時に見た映画の一つに、たしかそんな事を言ったキャラクターが居たような。
あの時は酷かった、体についた縄の痕が二日は消えなかった、それは三兄弟も解ってやっていたらしく、痕が残っている間中からかわれた。

「それは随分と夢のある話だな」

「そうよ、月なんて不誠実な物に誓うだなんてバカのやるコトだけど、バカはバカなりにアンタもこれぐらいの事いえるようになりなさい」

びしっと俺を指差すコイツは楽しそうだ、嘘か本当か知らないが女は話す内容より、その会話その物に喜びを見出すと昔聞いたが、今のコイツはとても楽しそうだ。

「はいはい」

「……ねぇ、この月見団子、実はアタシが作ったって言ったら、信じるかしら?」

「いいや、信じられない」

頬杖を突いた少年に、俺自身の正直な感想をはっきりと言ってみる。
俺何考えて大参事になりそうな事を言ったかって?
ただの思い付きだ、今なら言っても平気そうだから言った、こう言う生き方は適当な所で自分の我を通すのが、長続きさせるコツだ。
まあ、通し所を間違えると東京湾名物、水中花になってしまうのだが、そう言えば、あの日連れて行かれた同僚は出張先の問題で道頓堀だったか。
おお、なんまんだぶ なんまんだぶ。

「信じなくて良いわよ、アンタみたいなゴミ以下の人間に信じてもらえなくても困らないわ……でもアタシ、タダ働きはキライだし、イヤなの」

それを聞くと、少年から一気に元気が無くなって、俺の予想した通り罵りの言葉は飛んではこなかった。
ほんの少し、悲しげに顔を曇らせた少年は、少年がいつも浮かべる意地の悪い笑顔や、満足そうな笑顔よりも、俺の加護欲を煽る。
だが、俺には女を本気で泣かせて楽しむ癖は無い、(コイツは女ではないが)今日は特別に言ってやろうじゃないか、月夜の出来事、常識はご法度だ。

「夜毎姿を変える月の如く、何者にも囚われぬ美しい乙女よ、お前の前ではどんな宝石も霞む、ならばお前の首物を飾る宝石は、あの星の王たる月こそが相応しい、乙女よ、お前にお前の化身たるあの月をあげよう……ってか?」

何でこんな臭いセリフ言ったかって?
ただの思いつきさ。

「アリガト……」

突然、少年は俺の目に自分の手のひらを被せた、俺の全ての視界が遮られる、しまった、サングラス盗られた。
大きめだが、大人の目元を全て覆い隠す事は少年の手のひらには出来なかった、塞がれきっていない右目、指と指の間から、金色のシロップの様な月光が漏れ注ぐ。
完全に遮られた左目に、温かく、甘い吐息を感じた。

「でも、あんな重そうな宝石はアクセサリーにはし難そうだし、アタシが月を取っちゃったら、一緒にお月見できなくなっちゃうわ、だから、今は観賞用にしておくわ」


その後は、何事も無く月見が進行した、途中他の同居人達が帰ってきて、月見と言うより宴会になって、風流と言う言葉は空の彼方へ吹っ飛んでしまったが。

次に目を開いた時、もう俺の視界は慣れ親しんだ仄暗い世界に帰っていた。
あの時何があったか、それはお月様しか知らない、か。

全てが過ぎた今、今残っているのは何時かは消える記憶だけ。

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