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僕の何時か、急に消えちゃうのかな。 [小説]

即席神頼み様

登場キャラ:おじさん 0014 サ○ウの切り餅

罰当たり度:★★★☆☆
(こんな事をしてはいけません)
(信仰を失った神社はただの小屋)







即席神頼み様



「おお、なむなむ、なむなむなむ……麿狐を拝むでおじゃるー」

「はらたまー、きよたまー。此処は、いやいや参拝する乃公狐をでちゅ」

「いや、なむなむは違うだろ」

俺が子供の頃過ごしていた田舎にも、こんな場所があった気がする……目の前にはちょっとした社が二つに、朱に塗られた鳥居が二つ。夜だと言うのに虫の声がけたたましく鳴り、月の形は雲に遮られて見えないが、金色の光だけは雲に反射されて地上を照らしてくれている。感じる空気はどこか山奥の物の様で、此処は余程精巧に作られた訳ではないのなら、どうやら現実世界らしい。突然の拉致には慣れたが、こんな風に現実の何処かに引っ張り出されるのは初めてで、そんな事よりも俺が全裸な事を誰か気にして欲しい。サングラスがあるだけマシ、だろうか。この目には月光すら強すぎる。
二つの社には狐の面を被った二匹の狐、もとい、同居人の姿があった。昔の人間には狐はこう見えていたのか、そういう感想を持たざる得ないような強面。おじゃおじゃと喧しい狐のの居る鳥居に近付いて見ると、何を言っているのか難解な狐がわぁわぁと騒ぐ。よく見れば朱に塗られた鳥居は所々の紅が禿げていて、手で触ってみると危うくささくれた棘が刺さりそうになってしまう。もう片方の鳥居に近付く、すると強面の狐がおじゃおじゃと騒ぐ……朱の禿げた断面は、虫が巣にしたらしい穴が開いている。一匹の虫の食欲と住居を提供しているとはいえ、こうなった所を見ると、神気も何もあったもんじゃない。
なむなむは仏教で、稲荷は神道、解っていてやっているのか、本気で解っていないのか。どちらにしても二匹の狐は俺に向って手招きをしながら、こっちに来れば良い事あるぞ、と踊っている。狐面に狐耳を付けて、よく見れば普段の耳もあるのだから、二匹ばらついてはいても多い奴は耳が三対ある事になる。まあ、同居人に本気で耳がやたらと多くある奴も居るのだから、今更指摘する気にもなれない。強いて言うとするなら、何であの耳動いてるんだ。付け耳だよな、付け耳の筈だろうが。
暗闇の中、目を凝らさなければ解らないが、二匹の狐の居る社は今にも崩れ落ちそうで、朽ち果ててしまっている。そんな社のもう何十年と金属の音をさせていないであろう賽銭箱、今は何処の馬の骨とは知れない狐の尻を乗せられて、それが動く度にギシギシと嫌な音を立てて。何もしないでいては始まらない、黄色の隈取のされた狐の社に行ってみると、狐は声高らかに謳い文句を滑らせる。それに続けるようにして、俺の脚が向わなかった方の、朱の隈取の狐がコーンコーン、と鳴く。おい、ちょっと待ってくれ、もしこの場に人が来たら一発アウトじゃないか?

「麿狐は豊作祈願、開運成就、交際円満、何でもごされでおじゃる」

「コーンコーン、諸願成就、商売繁盛、考試及格、凄い乃公狐はでしゅ」

よく見ればまた此方に手招きする狐の社から、少し外れた隣、大きな土山があって、そこには夥しい量の赤い物が。風車がからからと回る、土山に突き刺さった赤い花が、からからと回る度に萎びた花と干からびた何だかよく解らない物が、左右に首を振る。風は吹いていない。思わずそれに気をとられて其方に一歩足を進めると、何時の間にか直ぐ近くに来ていた透明な身体をした狐の、細く透明な腕が俺の腕近くで空を掻いた。離れた場所に居るもう一匹の狐が、またコーンコーンと鳴いて、顔の無い顔で悪戯っぽく笑ったような気がする。
この二匹は別に人間の信仰を集める趣味なんて無かった筈だが……まあ、何時もの思い付きなのだろう、透明の狐は不機嫌そうに石畳の地面に座り込む。豊作祈願は別にいい、俺は農家はやってない。開運成就もいい、何か別の運を開拓されそうだ。交際円満は嬉しいが遠慮する、これもまた、変な奴を呼び寄せては適わない。真夜中にじわじわと蝉が鳴く、もう少し時期が経てば鈴虫辺りが鳴いていたのだろうが、こう聞き続けていると不思議な気分だ。「鈴虫が用意出来なかったから、蝉を鳴かせたのじゃ」透明な狐が、ほくそえむ。
変な所で気を聞かせてくれたらしい、とりあえず礼を言って、石畳は這っているそれの存在を知らせてやる。橙色と紫色をした百足が、狐の座り込んだ方向に……狐は「ひぃ」と鳴いて飛び上がった。
赤い風車、単体なら子供の遊び道具なのだが、こういう風に大量に並べられると何処か不気味に感じる。そういえば、幼くして死んでしまった子供を供養する寺にも、こんな感じの物があった気がする。ということは、もしかしてこの社は元々は子供に関する事を祈願する為の、そういった狐神を祭っていたのだろうか。犬科の動物は安産で有名だしな。諸願成就も前言った通りに勘弁、瓢箪から独楽が出て川に落ちた、とかは嫌だ。商売繁盛は俺にハナから関係無い。考試及格は言わずとも。二人の言う物の中に、安産祈願が無かったのが少し残念か。
そう思いかかった時、離れた場所の狐が賽銭箱から立ち上がる此方に歩いてきて、鳥居の前で立ち止まった。「デフォルト安産祈願でしゅ」口に手を添えて。いや、安産祈願だけにしてください。何か余計な物くっついてくると困るから。

「俺はそう信心深くないから、どれに何を願っても、まともに効きそうも無いんだが」

「むむ……麿達は兄妹の真似をして、神様のマネごっこしてるだけじゃが、アテにして良いぞっ?」

そもそも神様に対してそう、ご贔屓にしていた覚えも無いのだが、そんな奴の願いを神様が幾ら酔狂者とはいえ聞いてくれるわけが無い。俺なら叶えない、もっと信心深い奴の願いを叶えれば、そっちの方が心根にも良いだろうに。
身体は変わらずに白ボンテージ、暗闇に浮かび上がる様な姿に狐面と、これはそれなりに本物のそれに見えなくも無いが、頭の耳が全てを台無しにしている、気がする。あくまで自分の居た社の鳥居から先、足を動かそうとしない狐は、飛び上がった狐の様子に自分も跳び上がって見せた。宙に浮く狐は、忌々しげにそれを見る。おどけた動作をする、着地した狐。着地に勢いがあった訳でも、突風が吹いた訳でも無いが、もう一度飛び上がろうとした大狐の居た社の賽銭箱が、ガラガラと音を立てて崩れる。
俺のことを心配したらしい、そいつは被っていた狐面を取ると小さな眉を下げて、心配そうに俺の顔を覗き込む。やっぱりこれはこいつ等のごっこ遊びの延長線だったのか、同居人の中にはネットで教祖様ほやってる奴やら、妙な神様を信仰しているらしい奴や、自分が神だと言う奴まで勢揃いなので、誰の真似をしているかまでは解らない。一匹が狐では無くなったのを見て、もう一匹の白狐も元の同居人に戻る。表情が解らないのは何時も通りだが、こーんこーん、等と獣の鳴き声を言わない辺りが……あまり言わない辺り、何時も通りなのだ。
いい加減何に対したのだか解らないが、意地の張り合いを止めたらしいそいつは、俺とこいつが一塊になっている場所へ、足を小走りにしてやって来る。やって来たそいつともう一人、俺が何の願いも掛けなかったのが不思議らしく、そいつは透明で小さなそいつを抱え上げ、耳打ちを始めた。何を話しているかは聞こえないが、一人の表情で何と無く解る時もある。驚いたり、悲しげにしたり、いじけたり、子供というのは本当に表情豊かで、こいつにもそれが煩い程に当て嵌まった。

「は受けて人の親切でちゅー、ならば良い乃公狐じゃなくて、乃公に頼めばなのでしゅ」

「じゃー…今日一日平和に過ごせますように」

真似ごっこ、とは、こいつ等もまた真面目に神様崇めているというわけでもなく、兄妹が崇めたり名乗ったりする神の座も信用していない様だ。その上、どうやら神だのみをする位なら自分に願いを掛けた方が良い、そんな事まで言ってくれている。こんな神の社でなんとも罰当たりな発言だが、この社を見ているともう神様もへったくれも無い気がしてならない。その昔には本当に神様とやらが居たというのなら、俺の様な奴が沢山増えて、その存在とやらを誰も信じなくなってしまったからなのだろう。だからといって、それを同情する気にもなれないが。
狐ではなく自分に頼め。確かに姿形の無い物よりは俺の様な、変な部分が捻くれた人間には信用しやすく、またこいつ等らしい。自分の白いそれに覆われた腕、片方に透明な子供を抱き上げたまま、もう片方の腕で……そいつはその子供の胸を叩いた。おいおい、そこは「任せろ」って意味なら、叩くのは自分の胸だろうが。思いの他、力が強かったらしくその子供はぐったりと、まるで死んだ魚の様に中に浮かび上がると、風船の様に何処かに飛んでいきそうに……なったが、飛び起きると思いがけず自分を引っ叩いたそいつの頭に、力の限り足を食らわせる。
だからと言って、下手をすれば神様より不明確な事が多すぎる同居人達に、ほいほいと物を頼むのは気が引けるし、何が出来るのか如何かも解らないのなら頼める事は一つになる。こいつ等に出来る事か、東京湾の水中花を増やす事だったら、いとも簡単にやってくれてしまいそうだが。
二人は顔を見合わせて、何を当然のことを言っているのだと言わんばかりに俺の顔をちらと見ると、片方がけらけらと笑い出した。もう片方には表情が無い所為で解らないが、口元を押えて、噴出してしまう程に面白い事があった風に俯く。

「それは聞けない願いでおじゃる」

「始まってる、もう次の悪戯でちゅー」

なら安産祈願で、安産祈願単体でよろしくお願いしますよ、神様。
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