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七夕:人間より頭良いんだから、今頃空飛ぶ車とか乗り回してんよ。 [小ネタ]

七夕SS
神様なんだからとっくのとんまに使いまくってんじゃねーの

登場キャラ:おじさん 氷室の者

七夕度:★★★☆☆
精神有害度:★☆☆☆☆
(持っててよかった、文明の利器)
(別に惨劇は起きない)
(だが惨劇の幕は切って落とされた)






神様なんだからとっくのとんまに使いまくってんじゃねーの



「おじさま、おじさまは年に一度だけ会えるのと、ずっと会えないのどっちがいいのでしょう」

テーブルの上には一房の笹、俺の前に出されているのは笹の葉で包んで作った焼きおにぎり。小ぶりだがしゃんとした葉の笹の房には、色取り取りの同じ様に小さく作られた七夕飾りが飾られていて、その細工は俺から見ても器用なことをやる物だと感心してしまう。勿論、盗品などではない、今度こそ。
言い方を帰れば風流、な七夕に濁流を注いで西洋的な雰囲気にしてしまうのが、常時季節感も無くドレス姿のこいつ。本人から言わせればこれは夏用で、冬用の物とは全く違うらしいのだが、学の無い俺に説明した所何かの呪文か。異世界の言葉か、そんな程度しか伝わらない。
七夕に関してそんな事が、織姫と彦星伝説だっただろうか……こいつはそういった話に食いつく事が多い、それが神話でも恋話好きは大部分の女の本能なのか、今度もその影響なのだろう。どんな話だったか……たしか、恋愛に現を抜かした二人が父親に諌められ、罰として一年に一度しか会えなくなった……とか、確かそんなだった気がする。
虫が灯りに誘われて入ってこないよう、網戸にしてベランダを空けているお陰で夜風が入り、涼しく湿った風が少し寒い位だ。そう言えば今日はにわか雨こそありはしたが、雲も風に流れて晴れ、自業自得臭い別れ方をしてしまった二人も会える……らしい。今思い出した事を考えただけで、話の正確性は知らん。
年に一度だけでも会いたい、そうまで思える相手なのだったら、永遠に会えなくなってしまう事は身を切られるより辛いだろう。俺はさほどドラマチックな生き方をしていないが、こう四十年以上生きていればそれ位は解る。事実、生きる気力も死ぬ気力も無くなった。そして、今も。
そいつが何を思ってこれを聞いているのか知らないが、笹の葉を一枚毟り取ると、その毟った葉を指で弄って遊ぶそいつの表情は何の気も無しで、俺が此方を向いた事に気が付くと笑って片手を軽く振る。テーブル越し。こんな至近距離から手を振られるのも妙だが、どうやら、今日は何やら機嫌が良いらしい。

「ああ、七夕か。
そうだな、一度も会えずに終る位なら、一度は会っときたいな」

「でも、会えばお別れしなければなりませんの。お別れは辛い物ですわ」

それもまた当然と言えば当然、再会は一年後とくれば辛いだろうが、俺としては全く会えなくなるよりマシだ。神様の一年なんてものは、人間にとって一週間程度なのではないかと大昔に聞き齧った聖書の天地創造を思い出したが、あれはキリスト教だったか。まあ、そんな事はどうでもいい、こいつはそんな神様の時の流れなんざ考える気では無いのだろうから。
機嫌の良い時のこいつは意外な程に素直で、ホイホイと忘れ事をしてしまうことに変わりは無いのだが、それを素直に認める分だけ生易しい。ああ、また忘れた。何をして居たのか教えると、「では続きを、どう思いますの?」急かすような事を口走る。冷房要らずな夜風に混じって飛んでくるのは、隣の家の夜食の香り。
網戸の枠を震わせる程に吹き込んで来た風に身震いする。開けた時湯上りだったこともあって、体が冷えてしまったのだろう、そろそろ閉めるか。肴として食べていた焼きおにぎりもこれで最後、別に嫌な訳では無いが、今日は何かもう少し軽い物の方が良かった……まあ、醤油の焦げる匂いと生姜の風味が子芳ばしくて美味い。
別れに関して話すということは、やっぱりこの話は初対面の人間に対する物ではなく、理由如何あれ限られた親しい相手を前提としている話らしい。それとも、別れる辛さがある位だったら、最初から会わない方が良かった……とか、抜かすんじゃないだろうな。日常的に出会いと別れはあるものだ、仲が良いからといって便所の中まで付いて来られては堪らん。あの時は本当に困り果てる羽目になってしまった

「そうで無くとも別れる時はあるだろうに、お前は会わない気か」

「いいえ、ワタクシはどっちも嫌だから、どっちも御免ですの。
ワタクシと愛しい方を引き離す輩がいらっしゃるのなら、蹴って殴って噛み付いて、ぶっ殺してやりますわ」

実に素直で率直で、野生的な響きに血腥さの漂う物騒な答え。今日も話す時はテーブル越しなそいつは、テーブルに両手で頬杖を突いて、笑った形のまま歯をガチッと鳴らす。なるほど、あれで噛まれたら指の二、三本は千切れるな。下手をしたら手の平ごと。外見を人間と同じ様にする為の本当は使われない筈の歯だというのに、今は本物より鋭く見える。
最近見ない程に乙女なポーズ……まあ、似合ってはいるが。怪物的に歯を鳴らしたそいつは、体をゆらゆら揺らせる。そろそろ網戸を閉めよう。立ち上がってベランダ前まで以降とした時、まさか付いて来ないだろうかとも思ったが、幸いな事にそんな事は無かった。向こうは機嫌がよくとも俺の為に体力を使う気は無いらしい。
こいつの性別を何と言うべきなのか、そもそも降雪機に性別なんてあるのか、そんな事は俺の脳では判断しきれないが、実にシンプルで男らしい答えだ。こいつにはそれが出来るという確信があるのか、はてまたそれも解らない程にバカなのか、完全に言い切る様な言い方には、一種憧れの様な物を抱く。一般の健全な日本男児として。
振り返って見ると、そいつは指の間に挟んでいた笹の葉を裂き始めている。笹の葉は先程の面影無く項垂れて、筋のある様子が無い。一瞬ウエディングドレスを着たこいつが、タキシードを着た男を小脇に抱えて厳戒態勢の教会から脱出する様が浮んだが、改めて思う、俺は一体何を妄想しているんだ。というより、逆だろう普通。

「All Or Nothing って奴か」

「ええ、ワタクシ欲張りですのよ」

両側を折り曲げ、折った所を三等分する様に切れ目を入れる、三等分した真ん中を裂いて両側が重なるように挟む。出来上がったのは笹舟、元から小さな笹の小さな葉で作っていたのだから、やっぱり小さな笹舟になる。テーブルにそっと下ろされた舟は、網戸から入った風にゆらゆら、まるで水の上に浮かべた様に揺られる。網戸を閉めると揺れは収まった。
欲張りか如何かは知らないが、誰だって出来ればそうしたいだろう、お前の様な確実な確信を抱けないだけで。その確信とは一体何なのか、例えに上げた通りにやっぱり暴力の事を言っているのだろうか。確かに拳で勝てる相手は少ないだろう、何せこいつの体は一応は鉄の塊、殴っても此方の骨が折れるだけで終わるに違いないだろう。
そいつは笹に手を伸ばすと、飾りの無い葉を選んでまた笹舟を作り始める。暴力の力とは人が思っているよりずっと強い物で、時に金の力より強い、金で暴力を借りる事は出来ても、此方に殺意を持った相手から暴力を借りる事は出来ない。俺はそんな暴力に一つしか対抗策を持っていなかった、それは暴力だ。誰に言われたと言う事も無い、気が付いたらそう学んでいた。
確実これは間違った解釈なのだろうが、今でもそれだけしかない等とは思っていない、俺は大人になったのだから。今の俺の手元には昔では考えられないとても便利な物がある、人間ならではの物で、愛とか勇気とかより確実な物が。

「ま、今の俺達には文明の利器があるだろーが」

便利だ、携帯電話。
さっきまでメルヘンな会話に浸っていたそいつは、そういう俺に少し呆れた様な顔をして、「織姫のメアド、ちょっと気になりますわね。男として」と、やましい受け取り方をするのだったら、お前は本当に真剣に女目指しているのか、と言いたくなる様な事を言って、ドレスに付いた大量のフリルの間から、銀色の……携帯電話を取り出しして見せる。
俺のプライベート用の携帯に似ている、型が古い同じ機種、よく見れば傷の位置まで同じ……あれは似ているというより…………名実共に、俺の?
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