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まだ蕾 [小ネタ]

当日とかめっちゃ寝てたから、父の日乗り遅れたよー!
こっち連作になります、いいんだ、梅雨は七月中旬まであるから!!
今回の話は、コレ単品だと多分訳わかめ。


父の日連作
20日白い薔薇はまだ咲かない

登場キャラ:おじさん 針の頤

白度:★★☆☆☆
精神有害度:★☆☆☆☆
(進行中は別に何も起こりません)
(これはプロローグ)





白い薔薇はまだ咲かない



珍しい、普段瀟洒という言葉が良く似合うそいつは、何時も紺色か黒の燕尾服を完璧に着こなして、一度だって私服的な服装になっているのを見た事が無かったが、今別の例外が俺の中で生まれた。
別にだらけた格好をしていた訳では無い。寧ろ、それは俺が今直ぐ謝って扉を閉めないといけない、何故なら、今俺は、互いに災難な事にこいつの生着替えにカチ会ってしまったからである。
と、言っても何時もの燕尾服を着ていないだけなのだが。それ以外の服装で居た所を見た事が無かったからか、とんでもなく珍しい生き物に出会った気分になる辺り、俺も馬鹿な奴だ。自分の潔白を証明するため、もし下着だったりしたら今直ぐ立ち去っていた、と言って置く。
相変わらず、外国や名家の邸か何かでは当たり前なのだろうが、『まあそれなり』程度のマンションの一室に存在するにはこいつの格好は不釣合いな物で、そいつが立っている場所だけ妙に浮いて見える気がした。
俺の存在に気が付くと、そいつは背広を着込んで何時もの格好に戻ると、深く頭を下げる。普通そこまでしなくても構わないとも思うが、ここまで丁寧に扱われる事は、別に悪く思えない。他の同居人達に爪の垢でも飲ませてやりたくなる。
カーテンに遮られながら昼の太陽が差し込む、灯りはついていなくとも適当な明るさをした部屋、俺もそこまで詳しくは無いため断言は出来ないが、心成しかそいつの格好は何時もより小奇麗、何時も小奇麗なのだから、大綺麗……? そんな風に見えた。

「こんな時間に珍しいな、えらくめかし込んでるじゃないか」

「ええ、父の日は明日ですから。
私めは暇を潰して来いとの命を承りましたので、このお暇を最大限に活用させて頂き、見苦しくない格好にさせて頂いております」

よく見れば、胸に白いバラが挿されていた事に俺が気がつくと、そいつはそれを察して微笑む。眼鏡越しに見た柔らかい表情は、仮にこの直後大地震が起きようが揺るがないといった風な、純粋な喜びに満ち溢れている。
父の日は明日。という事は、日を跨いだ頃から何かしらやる気なのだろうか。なんとも気の早い話だが、こいつ等のやる事としては、らしい、という評価が付く物だ。
暇を潰して来い、という命令も不思議な話だが、こいつは何時もその、ご主人様と呼ばれている奴の傍らに控えている為、そのご主人様に野暮用が出来たか何かで邪魔になったのだろう。
だが、きっと呼んだ時に戻って来て居なければ、何か酷い目に合わされる、というのは、俺の経験則だ。人に仕えるというのは、本当に難しい。こいつはそのやたらと難しい事を、逆に嬉しく思って居そうだが。俺には到底真似出来ない。
襟を整える仕草も浮く、俺の貧相な想像では陳腐な考えしか浮ばないが、こいつはこいつの中で相当浮かれているらしい。こいつ等は自分の父親が大好きらしいから、理由が何だろうが、祝う事は当然嬉しいのだろう。

「お前達、仲が良いしな」

俺の予測では、これからこいつ等は何処かへ行くのではないか。それだったら今日一日と言わずとも、半日だけでも平和に過ごせそうなので、俺としては大歓迎だ。ああ、そうなると飯は久しぶりに自炊か。洗濯も、そういえば自分で洗濯機を回すのも久しぶりだ。
自身、姿勢が股を潜るような事は無いと自覚しているが、正に直立というのか、こいつの姿勢は良く、実際の身長よりもずっと高身長に見えた。柔和な表情を崩す事も無い、乱れ一つ無いまま立っている。
そんな様子を見ると、逆に人間ではない事が解る気がして、俺自身が思っている事だというのに勝手に妙な気分になってしまう。腰に出し入れ自在のうねうねした物が生えているとか、そういうのは考えなければの話だが。
子供の頃は父の日を祝った。そんな記憶はあるのだが、俺の記憶の中の親父に纏わる記憶は、その白い背中と、時々やったオセロで盤上を真っ黒にされた事位だろうか。義父の物も、大体は似た様な物だった。真っ黒にされる事は流石に無かった。
……古い事を思い出すとどうも気分が沈んでしまうのは、自業自得且つ、ほぼ反射だとはいえ困る。永遠に昔を思い出さない事は不可能で、今みたいに昔を時々思い出す。そして、更にその他の出来事も思い出す。

「そうです、これを差し上げましょう。
在り合わせの物での即席で失礼ですが、どうぞ、お納め下さい」

「おう」

何はともあれ、相手が誰であれ、俺に悪意を飛ばしてこない奴が嬉しそうに何かを祝うのを見る事は、それなりに俺の心を軽くしてくれる。いや、日常的に悪意以上に厄介な物の方が飛んでくるが、今はとりあえず無視した。
差し出されたのはそいつが胸に挿していた物で、白くしっとりとした薔薇の花。俺に渡して如何するのかは解らないが、俺にそうポンと渡すという事は代えがあるのだろう。好意として受け取って置く。
甘く上品な香りのする花はまだ蕾で、家の中に花瓶があったか如何か忘れてしまったが、水に挿しておけば数日で満開になるだろう。そういえば、薔薇の花は父の日を祝う花だったか。
もうそれを祝う歳でも無いが、もう二度と祝う事が出来ないのだと思うと、心の底から哀愁が湧き出てしまう。人間は薄情な物で、こうして無くなった物程惜しがる。そして、俺もまたその一人だ。

「私達にとって、貴方様はそれ程に愛しい方なのです」

父の日を祝う花を、それとは関係の無い人外に渡されるとは、俺の年齢的に考え方によっては惨めな状況なのかもしれないが、こんな事を言われてしまっては、俺はまんざら嬉しくない訳が無い。
薄明かりの中で渡された滑らかな薔薇の花。こいつ、いや、こいつ等の言葉の意味を大して考えていなかったツケは、後でやっぱり回ってくる事になった。そうだ、今日は当日ではないのだから。
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