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自分が誰だったか覚えてるかい? [小説]

最近ちょっと自分の書く物、書き方が変だと気が付いた。
自分はキャラクターを動かす、っていうよりは、キャラクターがした行動を文にしてるだけだ。
そして、書いてる物はそいつらの行動の1コマなもんで、短いと短いまま長く出来ない。
動かすってどうやんの?




蜘蛛糸の繭

登場キャラ:おじさん 唯我独尊の子

止まってます、止まった様に見えます。
よ。
考えるのを止めた度:★★★★☆
精神的有害度:★★☆☆☆
(小難しい)
(短い)
(おじさんの安否はご想像にお任せします)







蜘蛛糸の



拉致された事を理解したのは、同居人達が俺を何処かに運び込んだ後だった。どうやら、出された食事に何か入っていたらしく、意識の昏倒を自分自身で認識する前に俺の意識は無くなり、現在に至るという訳だ。

感覚的な差から認識すると、此処は電脳空間の一部らしいのだが、突然の拉致よりも先、俺は何よりその異様な……異常な光景に思考を奪われる。
目の前には無邪気な表情をした赤毛の少女、それを追う緑髪の少年、遠巻きにそれを見る召使のような男。その他にも、そこには沢山の何か達が居た。
平常時ならば、この光景は全て微笑ましい光景として、俺の様な人間とは交わる事は無いのだろう。だが今これは平常でない、全ては、全てが止まっている。
止まっているというのは文字通り、まるで生きたまま石像にでもなったかのような状態、少女は後ろの少年に笑いかけたまま止まっている、少年は片足を蹴った姿のまま、召使は紅茶をカップに注ぎかけたまま、カップに注がれる紅茶ごと。
死体ではない、肌は健康的に張りがあり、血色の良い頬は今にも動き出しそうだ。これは生物、そう俺に認識させるには、たったそれだけで十分だった。
空の色は青く澄んでいる、一点の曇りも無く晴れた空は作り物とはいえ清々しいというのに、流動することなく止まった大気は肌に纏わりつき、何とも言えない不快感を俺に与える。
その場所には季節感も無く沢山の紅葉した木が生えていて、散り往く筈の赤達は止まったまま靡く事無く、重力を真っ向から否定するように空中で静止する物もあった。

一体、何があった? それ以前に、俺が此処に連れて来られた意味が解らない。それとも、最初から何の意味も無いと、またそう言う気なのだろうか。
その時、俺の立つ所から数メートル離れた場所にある木の上、非日常の染み付いた大気を滅するような、それ以上に存在その物が異種であることが否応無しに感じられるような存在感を感じる。

「無知、とは祝福なり……貴様はそうは思わんか?」

振り返った先には、濃紫の髪に二房の銀髪を垂らし、眠るような体勢をしたそれが存在した。
この奇妙に虚数な空間の中、その存在の確固さを確定させるのは、それの容姿ではない……生殺与奪の一切を気取られ、握られ、弄ばれるような。頬を震わせる絶対の『畏れ』。
『畏れ』を纏ったそれは、たった一瞬で俺の全てを射竦めると、俺に全てを理解させた。ああ、俺が強制的に此処に連れてこられたのは、何かでこれが俺を呼んでいたからなのだ、と。
今まであまり酷く関わった事も無く、これの存在に当てられる事はあったが、此処まで酷く当てられた事も無かった。おそらく、今此処が俺にとっての理解不能な状況であることが、俺を射竦める原因になっているらしい。
手に持って居るのは聖書、この危機的状況のあまりに笑ってしまいそうな程にアンバランスな取り合わせだが、聖書のページを捲る指はしなやかに細く、白く、神聖な物に見える。
俺は、如何してこれに呼ばれたのだろうか。ただのオブジェクト代わりか? 疑問符が浮ぶ度に消える、一度たりとも当てられなかった思考、一々悩んでいては精神が疲弊し切ってしまう。
兎に角解る事は、これが俺に対して何かしらの用があり、それが俺に何かを許すまでは俺はただの置物とさして代わらない、ということだ。

目線を此方に向ける事無く、退屈そうに聖書のページを進めるそれは、軽い音を立てて聖書を閉じて水面に波紋が広がるような静かな声で諭すように、俺に言葉を掛けた。

「随分と物欲しげな顔をしているな。
そう、今日は無礼講だ、お前に口を聞くことを許そう……」

見ては居ないが、それが目を閉じた事が感覚で解った。語気に笑いが含まれ、首筋を撫でていた刃のような存在は嘘の様に消える。
どうやら、幾つかは理解出来ないが冗談を交えていたらしいそれは、察するに……今までこれと遭遇したどの時よりも、今度は随分と上機嫌らしい、俺にとっては非常に恐ろしい。
その後に湧いてくるのは疑問の嵐だ、何せ自分が今此処に居ることすら、此処が何処でどうしてこうなっているのか、その全てが皆目見当もつかない程の非現実で、俺はどれを口にするべきか迷った。
俺を急かす訳でもなく、悠々とした態度を取る。それは自分の持って居る本を自分の腹の上に乗せると、閉じた瞼に糸を引くかのように薄く辿る。
その傲慢で怠惰な態度は、別人がしたなら嫌悪を催す物だというのに、不思議とその感情が湧いてこないその理由は、俺には永遠に理解出来ないだろう。

とりあえず何から聞くべきか、自分自身の置かれている現状と自分自身にある異常を比較して、自分自身に関与している事は全て周囲が原因だと考えたので、周りの事から聞くことにする。

「この……、いや……此処で、何が……起きた?」

地面に落ちる前、木から放れた直後に止まったらしい落ち葉に、それが片足を乗せる。落ち葉は落ちる事無く静止したまま、その足を支えていた。
それは、顔に掛かった前髪を小指だけで払う。二つに分かれた銀は、視界に入って尚生物の匂いがしない。触ったことは勿論無いが、見るからに柔らかなそれは、まるで水銀で出来た糸のように感じる。
先程周りをまだ探索していた時、彫像のように止まった人間に触ってみたのだが、それは思ったより弾力があり、確かに血の通った生物の感触がした。
完全に時間が止まっているという状態なら、俺が触った所、触ったという事実すら時間に刻まれず、俺の指が彫像の少女の体を軽くへこませる事も無い筈。
対して、物質も同じ。そこに静止しているということだけは変わらなかったが、土は土の感触がし、空中で止まった紅茶を試しに舐めてみた所、きちんと上質な茶葉の味がした。

「ありきたりだが、現状を探るそれは良い質問だ。
今此処は俺様の蜘蛛糸によって時間の供給を失った状態にある」

「時間の供給が止まった、ということなら、こいつ等は生きているのか?」

長い爪の目立つ指が睫毛に縁取られた瞼を辿り、無い涙の伝う筈の目尻を辿り、艶めかしく唇に辿り付き、瞑っていた目を開くと、それは足を乗せていた落ち葉から足を退け、自分の片足にもう片方を掛ける。
空間と次元を操るということは、時間を操ることと同義であるというのは聞いた事がある。これは、これの同族達は確か、体内で精製出来る蜘蛛糸に空間を繋ぐ、時空を歪める力を持っているのだ。俄かに信じ難いが、現状を他に説明する手立てが無いため、信じるしかない。

「時間という物を不可思議な事に、物体が存在し続ける限り、存在という意味で時間を喪失する事は出来ない。時間を消し去るということは、存在すら消し去ってしまうからだ。
その間供給されるべき時間を失った是達は、自らの生存本能に従い、中にある数少ない時間を無限に引き延ばされ、永遠にも程近く緩慢に活動をし続けていることになる」

それはとても饒舌に、軽く身振り手振りを付けてとても滑らかに語る。かの有名な独裁者達も、身の内にある感情を言葉だけでなく、体で表したからこそ支持を得たと聞いた事があるが、何の反応も無く語られるよりは数段と説得力があるよう感じる。
つまりは、この止まった様に見える人間達は、実の所俺の認識が不可能な程緩慢に活動していて、今も振り返った少女は何かを呼びかけ続けているし、少年は走り続け、召使は紅茶を注ぎ続けているという話。全く、ぞっとしない話だ。
だが、時間を感じているのは当人達であって、止まった様に見える俺達にとって当人達は止まって見えるが、当人達には一体どのように全てが進んでいるのだろう。
空間理論にも確か、人の認識と意識の話は深く関与していて、無視出来る物では無かった筈だ。今俺には奇妙な恐怖と共に、これもまた奇妙な昂揚感の様な物がある。これはきっと、俺の底に沈殿した人の業なのだと、俺は解釈する事にしている。

「……意識は?」

「存在その物の時間を遅らせている、意識と存在は直結してはいない……その時間を感じる感覚は、肉体的感覚で無く、精神、意識化の物だからな。
だが、その意識に影響を齎すのは肉体的感覚であり、それが機能しなくなった今、無限に引き伸ばされた時空の中、自らの感覚で認識出来なくなった世界を彷徨っている……実に愉快だ」

もし形容詞を探すのなら、柄にも無く、というのだろうか。それは軽く笑い出した。口の端を上げるだけの物ではないが、目尻を下げる程でも無い、つまりはそういう笑いだ。
対する俺は、何処だか理解の追いつかないような時空の彼方で、死ぬ同然の、死ぬよりもロクでも無い結末を迎えているであろう、此処に居る彫像全てを哀れに思った事と同時に、それに触れば自分もそうなってしまうのではないかという、全く非科学的な伝染現象を無意味に恐れてもいる。
そういった物が在る訳が無い、それは完全に自覚しているというのに、感情に程近い、だがそれよりも遠いような何かが、俺がそれに近づく事を拒絶してやまない。

「慈悲深いことだ、哀れに思うか……?
安心しろ、是は無知であった……自らの置かれている状況も考えず、疑問も持たず……家畜の様に痛みも苦しみも無く……此処に在った。
……文字を知らぬ愚者が本を読み漁った所、それが一体何を意図、意味する事なのかすら、言葉であることすら、理解出来ないだろう」

「つまり、不幸を知らないなら自分に災厄が訪れたことすら認識出来ない……無知は祝福か…………」

無知は祝福、誰に向けられた物なのか含みを感じる。それと同じく、この全てはお前が仕組んだ事なのかと、何処までお前が手引きしたことなのか、それがとても気に掛かる。
今この時のみなのか、幸せな誕生をした時か、家族が増えた時か。祝福された子供達の表情は、擬似太陽の光を浴びて一層健康そうに笑顔を浮かべているのだ。
かりかりと爪が立つ音が、俺の耳に届く。聖書を抓むように掴んだそれは、その聖書に何の感情も篭めず、無造作に地面に落とす。その内何度か、空中に固定された落ち葉に本が弾かれたが、最後は無残に土に付く事は変わりない。結局は土も動かないのだから、汚れる事は無い、だが時間が供給されている聖書は折れ曲がって皺が付く。

知ったから如何なる? 知れば恐ろしい結末を知るだけで、俺の喉に張り付いた質問は剥がれようとせず、剥げば周りの肉を削ぐような錯覚をしてしまう。
そうだ、俺はそれが、たまらなく恐ろしい。

「息子達の真似をしてみたが……質問ごっこ、たまには中々楽しいものだな」

それは木の上から起き上がると、その視線を俺に向ける。宝石の様に深く輝く、底の見えない獰猛な濃紫の目が俺の心まで見透かすかのように、きゅう、と、細められた。

「最後に一つ聞かせてくれないか?」

「何だ?」



「お前の無礼講は何時解ける?」

「何を言っているのだ……決まっている」







俺様が『無礼』と感じた時だ。






鉄錆の味が口に広がった事に気が付いたのは、口の端が切れ、滲み伝う血が頬を撫でた時だった。俺の血を弄ぶ獰猛な濃紫の目は、俺を射竦めて放さない。
瞬き一つした時、それが酷く楽しげに笑っているのを見て、何故だか俺も笑っていた。

笑い顔を形作る筋肉は、牙を剥く獣の顔に良く似ている。

これはなんだ?
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