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設定SS:ですわーですわー! [小ネタ]

今回はバレンタインSSじゃなくて、ちょっと寄り道ー。
いや、氷室の者は味覚ないって設定こね回したら、一本書けちゃいまして。


設定紹介SS
しょっぱい

登場キャラ:おじさん 氷室の者

Q.『これ』って何?
A.これはこれ

なんとか度:★★☆☆☆
精神有害度:★☆☆☆☆
(別に卑猥じゃない)
(設定紹介物)
(そのくせ会話文多い)





しょっぱい



安っぽいガラス張りのテーブルの上に乗せられているのは、味噌味のアサリと、カンされた焼酎。簡単に言えば、これは俺の晩酌の主役とその頼れる友人だ。

一日必死になって帰って来た後は、とっとと寝るか、これの世話になって寝るか、そのどちらかだが、今回は比較的疲れていなかったため、一杯やってから眠る事にする。
目の前に居る何か。目の前に向かい合う様にして、テレビを遮って座っている機械人形が邪魔だが、気にしたら負けと思うので、今はほうって置く。
どうせするなら、ちゃんと人の居る店でやりたい物なのだが、あまり酒で騒ぐ人間が大量に密集した場所では、折角心を潤すつもりだというのに、心が枯れてしまう。
パックの肴でもこれは美味い部類だ。そんな気取っている訳でもないから、名前の付いた酒はいらない。目の前に恨めしげな目線があるが、テレビは見ていないし、無視出来る範囲だ。

あとはこれが口を聞いたり、激しく動き出したり、あまつさえ暴れ出したりしなければ、最高の晩酌なんだが……。

そんな訳も無く、目の前の機械人形は、割り箸を一本割ると、俺の少ない肴を抓もうとする。

「……壊れるぞ」

「何がですの?
ワタクシはちょっと酸っぱい物が食べたいですわ。今直ぐそのワッフルを置いて、大人しく地べたに這いなさい」

何から言うべきだろうか、そうとも思えるが、無駄な事をした所で、この機械人形はそれを次々に忘れて、俺の現状はそれに比例して非常に悪い物となるだろう。
機械人形は自分のその、薄めて飲む乳酸飲料のパッケージのような柄の、水玉模様の縦ロールを、邪魔そうにしている。ならやるなよ。
丁度手元にあった、同居人の誰かの物と思わしきヘアゴムを渡すと、これは幸いと機械人形は受け取り、自分の髪型を縦ロールをポニーテールにするという、力技な髪型に変えた。
平和になった所で、何と無く口寂しいので、まだ酒に手をつけていないが、今回の酒の肴を頂く。悪くない。同僚に美味いと聞いて買い始めたが、やっぱり何度食べても、この塩辛いが深い味わいはクセになる。

その横でパクパクと、やたらと手馴れた感じで、俺が買った肴を清々しいまでに勝手に食うのは機械人形。もう何も言わない事にする。
口の形の裂け目でしかない筈の口に、面白い程パクパクとアサリを放り込むのは、ある一種の食物を粗末にしている状況なのだろうが、別に自分は地球愛護に乗り出していないので、止めない。

この機械人形は、他同居人と違って物を食べられない筈。他同居人の中には、機械でありながら、それをエネルギー変換出来るという技術が搭載されていたが、コイツは違う。

「んー…ぶにょぶにょしてて、えっと、おいめたいですわーv」

「味も解らないのに、か?」

ぶにょぶにょ、おいめたい。
兎に角、この肴はコイツのお気に召したらしく、俺の喰う分が減りすぎ、まともな日本語を忘れる程に美味かったらしい。
いや、言葉を忘れるのは今更か。そもそも、ぶにょぶにょで美味いってなんだ。おいめたいって、何と無く意味をニュアンスで受け取ったが、めでたいと混ざっているのか?

「あら、そんな死ぬ程くだらないこと仰るの?」

そう言って、機械人形はまだ俺の手をつけていない焼酎を手に取ると、自分の分のコップを勝手に用意して、勝手に注ぎ始めた。多分、俺が何も言わないのを、合意だと思ったのだろう、遠慮が無い。俺の晩酌の心配をしてくれ。
機械人形はもう一杯の酒を煽った後、当たり前のことを聞かれたように、次の一杯を注ぎながら、小さく口元を吊り上げる。

酒の進みが速い奴だ、一口辺りでかなりの量飲んだせいで、俺の分として残っている量が、恐ろしく少なくなってしまっている。
まあ、無いなら冷蔵庫から出して来いという話だが、コイツはこの酒は俺の財布から出た物だと、解っているのだろうか。いや、解ってないな。

これに味覚が無いのは周知の事実だ。物を食べる事の不必要な機械人形で、その機械人形の顔、口は正直な所、それを取り扱う人間の視覚的効果を柔らかくする為で、絶対に必要という訳では無い。
現にこの機械人形は、物を食べた後は明らかに調子が悪くなり、周りの人間にそのとばっちりを食らわせては、同居人の誰かに回収される。今なら俺が被害被るのだろう。
少し考えて、アルコール類なんて大敵だろう。自分の家の電化製品に、今此処にある焼酎を撒けば、どれでも確実に破壊出来る。
なら、この機械人形も、パーツ一つ一つに最低限の防水はされてそうだが、無茶は日の目を見るよりも明らかだ。

次の一杯を呑んで、その場の酒を全て体の中に流し込んだ機械人形は、その場の全てのカップが空になったのを見て、不思議そうな顔をする。
また忘れたのか。そして、また俺に『こんなに呑んだのか』的な事を言うのだろう。大分予測が付いて来た。

「こうやって、誰かと一緒に酒を飲み交わすと、なんとなく、味が解る気がするのですわ」

返って来たのは、俺の想像していた答えよりも理性的で、俺が上手く理解出来ないという意味では、反応し難い物だった。
俺が疑問符を浮かべる前に、機械人形の顔が俺に向き、その答えは俺に向って投げつけられる。

「だって、人間は空気や景色を美味しいと言って、味覚を使わずに感じるのでしょう?
なら、きっとワタクシが感じている『これ』も、きっと味ですわ」

トン、と機械人形は人に似せて作られた長い手を伸ばすと、見かけよりもずっとしなやかに動く指で、俺の胸を押した。
笑っていない、泣いてもいない、何の事も無く、ただ当たり前と言った風に、機械人形の指は俺の心臓の真上で、くるりと円を書いて動く。

「……お前の味、ですわ」

次の瞬間、機械人形はまた一瞬ぼんやりしたかと思うと、俺が最初に予測していたように、自分が酒をかっくらった事をすっかり忘れた風に、大騒ぎをして代わりの酒を要求しだす。

その姿には、先程の異常なまでの無感情が微塵も無い。


『味』、説明はされたが、あまりにも理解の範疇から遠い話。
まるで……子供の話のようではないか、俺の『これ』に味があるだなんて。

だが、それを真っ向から否定する程、俺は強くも無ければ、愚かでもなく、理性的でも無かったらしく、自然とそれを受け入れてしまった。
それに、その考えは嫌悪を催す物でもない、少し付き合ってやっても良いだろう。


だが、俺にその『味』とやらは解らないが、それは解るなら、何処まで解るものだろうか。


あまりにも漠然としすぎた理解の中で、今少し、それが気になった。
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