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バレンタインSS:此処は貴方と貴方の骨を埋める穴 [小ネタ]

もう何と言うか、バレンタイン関係無いぜ!
それにしても、各地で貰ってきたバレンタインフリ絵はどーしよう……完璧に掲載する機会を逃してしまったぜ。
この後、二月の予定次第では、雛祭までバレンタイン期間にするつもりだからなー。
もうどうにでもな~ぁれ!

SS第四段、名無しのターン!


バレンタインSS
女郎の夢

登場キャラ:おじさん 名無し

ちょっと…度:★★★☆☆
精神有害度:★★★☆☆
(普段と少し毛色が違うっぽいです)
(色々と仄めかすですよ)
(その後のおじさ(略




女郎の夢


力無く垂れた細い四肢。その全てに走る色と線。色のぼけた紫色の髪。色は人の物だというのに、何処か異常さを含んだ肌の色。まるで糸のように細い緑目。今それを塞ぐ薄い瞼。

今その本来眠らないはずの何かは、俺の目の前で眠っているかのような静けさを見せて、この部屋の生気無き静寂を彩っている。
何があってたかは知らない、家に戻った時、もう既にこれはこうして、まるで生身の人間がするように、静かに動かなくなっていた。
声を掛けるべきだろうか。俺の体に纏わり付く全ては、まるで水面の下の出来事のように、何処か抵抗を見せていて、俺の全てを虚数にする。
自分自身、自分の置かれる場所が良く解らない。それを感じている理由も、ならきっと、それはそういうものなのだろう。
人形は動かない、全身にうねる蛇も孔雀の羽も、今はとても静かに全て眠っているようで、まるで最初からそうであったかのようだ。

「おい、死んだのか?」

「勝手に殺さねぇでくだせぇよ。
ゲヒヒヒ……まぁだまだ、くたばっちゃいねぇでゲス」

ぐるり、首か動く。
薄い瞼が蠢き、煙草を押し付けられた布が、じわりと焼き跡を付けるように、じわりと緑に濁りきった目が開く。
言葉を返したのは、小動物の断末魔か、女の金切り声にも似た、耳障りで、それでいて何処か纏わりつくような、そんな響きを持った声。
俺のその言葉が投げ返された次の瞬間から、からからきりきりと糸で吊るされ、棒で御され操られ、舞台に上げられる様に人形が起き上がる。
全身の球体関節の一つ一つが動く度、俺の知らない、人でない熱を微かに持った何かで作られたそれが擦れ合って、人工物の鳴らす擦れた音が鳴った。
からから、きりきり。気が付けば、水面の重さは消える。そこに立っているのは、ただの刺青人形。全身の刺青は艶を持って、人ならぬ体を縦横無尽に這う。
立ち上がった刺青人形は、俺の目を濁った目で見ると、またあの咳をするような笑い声を上げて、おかえりと言うと、自分の頬を掻く。

「おかえんなせぇ、旦那。
今日は随分と早ぇえでやんすね、もしやクビにでもなったでゲスか?」

「悪い冗談だ。
俺の仕事でクビになってたら、今頃俺の腰から上は物理的に消えてるだろうな」

「ゲヒヒヒヒ……いいや、残りやすぜ。
いろぉんな……くたばりかけの人の中、無くなった体の一部として、そいつが死ぬまでドックンドックン言い続ける仕事が待ってるでやんす」

楽しげに悪い冗談を言う刺青人形の顔は、まるで最初と変わっていない。笑顔だ。こいつが笑っていない時は、ほぼ無い。だから今は多分、無表情なのだろう。
俺はそれに構わず近くに座ると、煙草に火をつける。別に何か銘柄を決めている事は無い。ただあれば吸う、無ければ適当に買って吸う。
刺青人形はこれ見よがしに咳をしてみせるが、俺は知っている。あいつは息をしていない。あの口で形に無い物は、媚び諂う言葉か、人を不愉快にさせる言葉以外、何も出入りしない。
息をしていない人形は、先程まで静かに眠って、まるで生きているようにしていた。眠る事は休む、止まる事。これは最初から止まった物。
他にも眠りを必要としていない住人は居るが、そいつらの中には、目を瞑って静かにする。という、眠りの真似事をしている奴も居た。

だが、この刺青人形は、かくもそれを無駄だといって、した事を見た事が無い。

「眠って……たのか?」

「叩き起こした事を謝る気ですかい? ゲヒヒ、ご心配なさらずに……。
ちぃ……と、他の真似をしてみただけでゲス、目を瞑って静かにするって奴を」

立ち上がったままの刺青人形は、座って目線が近くなった俺の目を見ると、またにたりにたりと、今度は明らかに嘲るような目付きを向けた。
この顔が、慣れない人間に向けた物であったなら、その人間は即座に立ち上がって、この人形を殴り倒そうとするであろう。本人も、絶対にその気でやっている。
その嘲り顔は、人形が自ら取り出した羽扇子で、自分の顔を覆い隠した事で消えたが、その下ではまだあの顔が浮んでいる気がした。
俺は羽扇子の芯越しに反応を観察されている、見られ続けている。緑色の目の輝きだけは、たとえ遮ろうとも、俺の姿を捕らえて放さない。
きりきり、人形の関節が動く、不自然すぎる音が鳴ると、無意識がまだ残る内、人形は目線だけでなく、蛇と羽の蠢く体ごと自分を俺の前に出していた。

「旦那ァ、あっし……夢を見たんでゲスよ」

「眠ってないのにか?」

「ま、何も言わずに黙って聞いてくだせぇよ、あっしの分のワガママ……バレ何とかだと思って。
あっしは立派な暗ぁい部屋いて、不思議な事に、指一本動かせねぇんでゲス」

このまま遮ったとしても、別に何も起こらない。こいつはとんでもなくしつこいが、そういった所はかなり淡白で、それが人の上げ足取りにでも使えない限りは、二度と言う事は無くなる。
だが、今回は断る理由も無い。時間が惜しい訳でもない。刺青人形の金切り声は、何時の間にかまるで何かの経のような、低く並べられたような声になっていた。

羽扇子から覗く緑の光が語る。

自分は人形になっていた。何も変わったことは無い、力無く垂れた細い四肢。その全てに走る色と線。色のぼけた紫色の髪。色は人の物だというのに、何処か異常さを含んだ肌の色。まるで糸のように細い緑目。今それを塞ぐ薄い瞼。
それになった自分はただの人形で、今の自分の様に喋る事も出来ない、ただの人形。格式のある人間に作られて、今その店で売り出され、人に引き取られて部屋に置かれている。
だが、その部屋は一瞬で無くなる。理由は解らないが、自分を買った誰かが死んだらしく、自分は別の誰かに安く売られ、自分が元居た家は無くなった。
新しく連れて来られた家は、前の家よりは小さかったが、引き取った人間は自分の手入れを良くした。そのお陰で、自分の軋む関節は良くなったし、埃を被る事も無い場所。
だが、そこもまた無くなった。その自分を引き取った人間が事業に失敗したらしく、自分を売りに出さなければならなくなり、ただの人形の自分はまた売られてゆく。
その後も、そういった事が何度も起きる。自分は何者かに買われ、何処であろうともその行く先々で、自分を買った人間の破滅を見届ける、それが宿命になっていた。

「でもねぇ……何も無くなって、もうあっしを買う人間が居なくなった時、最後に旦那がやって来て、あっしを買わずに……何もいわずに攫って行くんでやんす」

「……そうか。
それで、お前は人の破滅を見続けて、どう思った?」

「ゲヒヒ……なぁんにも、感じないでゲスよ。
お人形でやんすから、なぁんにも、感じねぇんでやんす」

記憶は人の記憶の写し鏡、人の記憶を整理するために、眠る人間の無意識の中で、その全てを整理しているのだと、昔誰かが言ったのを聞いた気がする。
この刺青人形には記憶が無い。記憶が無い者の夢は、一体何で出来ているのだろう。いまある記憶だけ、残っている物だけで出来ているなら、この人形に何か、そういったことでもあったのか。
羽扇子を畳むと、刺青人形は糸が切れたように、その場に座り込む。その目には何も映っていない。緑色のガラス球が入っているだけ。

「安心してくだせぇよ、ありゃああっしの過去じゃない……ただの夢、泡沫の呪物でゲス」

あれよあれよと言う間に、小さな体は中に浮くように立ち上がり、足袋を履いた足で、一歩前に出ると、身を投げ出したかのように腕を広げて、何も無い薄汚れた天上を見て、濁った目を瞑る。

「冷やかし千人、客百人、馴染み十人、間夫一人……」

「女郎の歌か?」

「そんな上等なもんじゃねぇ……ただの飯盛り女のでゲス。
あそこで綺麗な服着て、綺麗な物に囲まれて、綺麗な物だけ見て過ごして、綺麗なままだった……『あれ』が、本当にあっしなら、絶対に、こう言うでやんす」

人形は動かない。まるで糸を止められたかのように、刺青人形はぴたりと動きを止めて、そのままただの人形の様になった。
動かない。喋る口も、煙と共に動く筈の髪も、何もかもが止まったように、ぴたりと動きを止めて、まるで最初から全てが取り決められた演目で、誰かがそれを止めてしまったかのように。
口は動かない。だが、人形の言葉は続いた。

「売るなら人に……外の色から上げる声、剥いた皮から中の中、奥の奥までズズイっと…………見てもらおうじゃねぇでゲスか」

再び開かれた目は、まだ緑に濁り。見えなくなっている筈の目は、向けられていない俺への目は、最初に俺に纏わり付いた水面の下の世界のように、俺に張り付き放れない。

がしゃり。何かが擦れて、人形の関節が動く音。
かたかたかた。人形の体が震える音。

あっしはね、旦那の事、待ってやるのは止めたんでやんす。
何が起きたという事も無い、ただ、引き攣れた様な笑い声で、刺青人形が嘲う、嘲う。



最初から、選択肢なんて無かったか。
俺も、お前も。
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定晴

なっなっしくぅーーーーーーーん!!!!ベチャ!!(床と正面激突)(顔面複雑骨折)(死亡(待て^q^
うへへ。こんな朝からおはようございます
朝からニヤニヤ顔な私自重しろ^^^
なんですかこれは…スペシャルすぎて食べられないパフェとかそんなあたりですか…(
とりあえずばっちり凝視させて頂きました^q^←
by 定晴 (2009-02-20 06:23) 

ダレカ

定晴さん>名無し一匹、1500円でどうだぁぁぁぁぁあ!!!
なんて、そんなに情熱的にされると、名無しが茹で名無しになっちゃいますってw
あれだ、茹で名無しスペシャルです。
もし食べきったら、名無し5000円分が賞品な感じのwww
どんどん視姦しちゃってくらさい☆
by ダレカ (2009-02-20 20:57) 

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