SSブログ

企画:蜜符「御太師様の秘鍵」(下半身的な意味で) [拉致]

ふぇーい!久しぶりの企画更新、久しぶりにシリアス文を書いたら納得行かなくて、三回も手直しをしたりしました。
なんだか自分が琶琉君を書くと、裏琶琉君はバイオレンスっぽくなって、表琶琉君はサドっぽい子供になるなぁ…スキなんですよ、サド幼児。



コチラは、定晴さんのみ、お持ち帰り、転載できます。

童話企画
小さなてのひら。③

登場人物:琶琉君 裏琶琉君 ドルミン 真実の子

悪魔は泣かない。

昔々度:★★★★☆
精神有害度:★★★☆☆
(ギャグ少ない、シリアス)
(2人の人格に関して、独自解釈アリ)
(短いです)








とてもとても古い日記、金の刺繍が施され、何度も何度も修復がされた痕がある、日付は今から300年前。




『村外れに住んでいる一組の夫婦の下に、元気な双子の御子が産まれ、その洗礼のために本日は留守にする、祝福を受けた御子の顔はとても可愛らしく、いとおしい。
健やかに育つ事を心から主へと祈る』

『聖堂へ戻る途中、奇妙な旅人に1晩の宿を頼まれる。
旅人の服装こそは風変わりで、ここいらでは見ない衣装だったが、気質はとても明るく気立てが良い、悪人では無さそうな為、彼を泊める』

『何と言う事だ………。
昨晩1夜の宿を貸した旅人が、部屋の中で自殺をしていた……それも…おぞましい事に自らの腹を自らの爪で引き裂き、腸を部屋中に撒き散らすといった姿で……。
最初に彼の死体を発見したシスターは、あまりの出来事に卒倒し、哀れな事にいまだ意識が戻らない……。
見る限り彼にはそんな様子は無かった、だがそれにしても酷すぎる、私は彼に死化粧を施すと聖堂の墓地へと葬った、せめて彼の死後に安息が齎されるよう』

『旅人を泊めた部屋に、彼の残していた遺品、旅行鞄がまだ残っていた事に気がつく。
共に葬ってやれなかった事は私の不注意だったが、そこに彼の自殺に関する事が残っているのではないかと思い、旅行鞄の中をあけて中を見たところ、細工の美しい懐中時計が入っていた。
もしや彼の思い人からの贈り物では……そう思うと、私の不注意が悔やまれ



日記は続いています、それでもこのページはその一言だけを残して、まるで何か日記を書いている途中に起こってしまったかのようにそこで終わっているのです。
そこで一つ息を吐いて、ドルミンは日記のページをパラパラと飛ばし、あの赤黒い色が薄く見て取れる程後ろのページをまた読み上げました。
彼の様子は何かただならない事を知らせるようで、表琶琉君をとても不安にさせます、表琶琉君は自分の手に爪が食い込む事を構わずに、とても強く自分の手を握りました。



『彼は実に素晴らしい、数千の主の降臨を歌い、数万の人間の働きを1人で行い、全ての欲が取り去られた至高の存在。
もう既に数名の人間は彼の存在を知ってしまった、彼を奪われる訳には行かない、彼は私の日頃の行いを認めてくださった主からの贈り物なのだから』

『彼を誰にも解らない所に隠した、何れは私もそこへ行く事を望む場所だ。
もうこれで安心だ、この仕掛けを知っているのは私だけだ、もうこ






そこで、その日記は途絶えています、真っ赤な点が飛び散って読めなくなっています。


裏琶琉君は無意識の内に表琶琉君が握っていた手を解くと、ドルミンに対してとても挑戦的な物言いで迫ります、用心深い彼の中には今命の危機の可能性も渦巻いているのです。

「……その坊主の日記、何処で見つけた?」

「私の部屋から少し行った所にある、司教の部屋、書斎なのだよ」

どうやらあのドルミンもこの聖堂を探索していたらしいです、一体何が目的だったかは知りませんが、大方オカズでも探していたのでしょう。
裏琶琉君は。息を吸い込んでみます、するとこの部屋にもあの変にキツイ香料の臭いが漂っているのです、何だか全ての臭いが打ち消されてしまうようなねそんな此処に来た最初から解っていた臭いが。
その臭いに自分の思いつく事があって嫌な予感がします、そんな予想外れてしまえばいいのに、自分の部屋に置いてある本を一つ取りました、どの本もとても古い物で、手入れはされていますがそれでも時間の流れには勝てないらしく、何冊かは半分風化しかかっていましたが手に取った一冊、誰かの書き記したらしい日記をパラパラと捲ると。
日記は最初ドルミンが持って来た日記より新しい物のようです、旅人の日記、ドルミンが持って来た日記の日付から、ゆうに150年も経った後の日記で、その日記にもあの色の染みがあるのです。

「この変な香料は、こびりついた血の臭いを誤魔化す為の物だったか……!」

「どうやらそうっぽいねぇ、なのだよ、私の部屋にも日記はあってね、他の日記も読んでみたのだがね、後から来る…つい4年前に此処に来た旅人も……皆死んでいたのだよ」

「そりゃ……殺されたって事か」

その事を知ると息を吸っているだけで、此処で死んだ亡者を吸ってしまっているようで、何だか嫌な気分がしてたまりません、それでも息をしなければ死んでしまうので、その事が余計に裏琶琉君を苛立たせます。
けれども血腥い事は裏琶琉君は自慢じゃないですが得意です、いつぞや親の居なくなった表琶琉君を連れて行こうとした顔も知らない親族達を切り捨てた時と同じ様に、感情は残っても、頭の中だけが嫌に冷たいような、そんな風な気分になるのです。
ドルミンはきっとその事を知って、彼らに相談をもちかけたのでしょう、死の危機が迫りつつある中で無意識の内に口の端を上げる裏琶琉君を、ドルミンは太陽を見るような目で見詰めています。

「琶琉君、君は夜が明けたら、私の持って来たカンテラを持って、此処から出るのだよ」

この変態子の言う事にゃ、この聖堂内部にはもう既に数100人の人間の呪怨みたいな物が沈殿していて、それが今此処の全て止まったかのような空気を作り出しているのだといいます。
幽霊は全てが止まってしまった存在、仮に亡霊その者が居なかったとしても、彼らの残した無念の思いは生者の体を知らず知らずの内に蝕み、最終的には自分達と同じ存在に変えてしまう。
自分はそれを静めないといけない、現在の惨状を知った以上は無視しては通れない、自分は残る、そんな事を切々と語りました。

「え…でもドルミソ君はどうするの? それに僕達帰り道がわからないんだよ?」

さっきまで話を怖がって、裏琶琉君の後ろ側に隠れてしまっていた表琶琉君がねドルミンの危険を聞いてぴょこっと顔を出すと、心底心配そうな顔でドルミンの顔を見ます、ドルミンはまるで確固たる確信があるかのように、微笑んでいました。

「私なら心配要らない、道なら私が目印を用意しておいたのだよ、本日は気合を入れたお陰で半固形だったから、今でもべっちょりねっちょり木に付着している、それを辿ればよいのだよ」

想像したくも無い映像です、そんな擬音を使わないで下さい、微妙に非現実的な所が余計に妄想を誘発して、必要以上のいやらしさをかもし出してしまっています、このエロスの申し子をどうにかしてください。
それにしても表琶琉君は無垢です、先程までの鬼畜ぶりなど見えない程無垢で、裏琶琉君のナイーヴな心を古傷をフォークで抉るように攻めます、それこそが天然鬼畜の極意なのですが。

「べっちょり? ねっちょり?」

「お前は知らなくていい、その…なんだ、その汚い目印が無くなってる可能性は?」

道中の肉食獣は自分の鎌で切り倒していけばいい、ですがあの森は例にも寄って迷いの森、めちゃくちゃに歩いて村に帰れる事は無いというのは実証済みですし、仮に森を抜けても国境の方へ出てしまって、運悪く隣の国の兵隊にでも見つかったら目も当てられません。
あくまで平静を装い自分の脱出の計を探る裏琶琉君、いやいいよ、君はもう怒ってもいいと思う、その変態を切り殺してもいいと思う、それでもあくまでシリアスは真剣にこなす裏琶琉君、彼は何時か胃に穴が開いて血を吐くのではないでしょうか、その事が気が気でありません。
願わくば彼らがもっとマトモな世界に住んでくれれば良いのですが、だが残念ながらこの時代子供は親の所有物という立場である為、まだ勝手にフラフラと自立するとエラーイ人にフルボッコにされます、しかも前回は自力でどうにかなりましたがねもう一度新しい親が出来たので、更にややこしい事になってしまっています。
琶琉君なら全員退けること位できそうですが、それをやると平穏は雲の上の物になってしまいまうのです。

「無いのだよ、神のチーズケーキ嘗めないでくれたまえ、だが万が一の時の為に、森の中心部へは念入りに塗りたくっておいたのだよ」

「オエッ、チーズケーキ喰えなくなるような事言うんじゃねぇよ!」

「それなら君が食べなかった分は、僕が食べてあげるね」

「ああもう、俺が何をしたって言うんだ」

裏琶琉君、自分の頭に手を当てると、別に眩暈がする様なことにはなっていないのですが、あまりの怒涛のボケに疲れすぎてフラフラしています、お疲れ様です。

「その木なのだが、丁度ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲似の木でね、とてもそそられて出まくりの時間取られまくりーの、渇ききった木に私の愛情が染み渡るのはとても良かったのだよ」

「渇ききった……?」

「僕達が通った時は、あの木濡れてたよね」

思い出したくない、非常に嫌な予感がする、背中を嫌な汗がダラダラと伝って不快です、でも今はそんな事よりもっと重要な事があるのです。
乾いている物が濡れていました、雨も無く、自分達が濡らした覚えもない、それならあのネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲似の木は2本あったとか?
いいえ、それもありません、あの木は意図して作られたとか、そういう木だとか、そんなんじゃなくてたまたま石があんなんなって、木がこんなんなって作られた、自然の芸術なのです、卑猥術なのです。
あの木から染み出た樹液は白く、ネバネバして青臭い、なんというか、もうなんといったら解りません、ただ1つ確定した事は、ドルミンは自分達があの木に辿り着く前にあの木に辿り着き、そして色々と擦りつけていたということです。

次の瞬間、琶琉君の足は厨房の、水瓶を求めて走り出しました、もう後ろの方でドルミンが何か行っていますが聞こえません、正直な話もう手は何度も洗ったのですが、汚い物の汚い所を見ると、その後消毒されたと言われても触り難かったりするような、そんな真理でしょうか、走りました、疾駆しました。

「ちょ、琶琉君何処へ行くのかね!!!」

裏琶琉君は心に決めます、どんな事があってもこのアホから逃げる、いざとなったらあのアホを切り倒してやる、容赦無く、徹底的に、これはただ逃げてるんじゃない、撤退だ、そう決意して逃げ出しました。
実は血腥い事に慣れている裏琶琉君、本人も無意識での事でしょうが、彼の口元は釣りあがり、笑っているような表情になっています。
脳内が嫌悪と憎悪に満ちる中で、頭の中だけが冷えるような、何時だったか親の居なくなった琶琉君を母方の親戚を名乗る人間に連れ去られそうになった時、あの時のように鎌を振るう時が来た。
そう考えると、裏琶琉君は笑いが止まらないのです。



1回入ったことがあるので、水瓶がある場所は大体検討がつきます、それを1階の厨房です。
前に行った時は手前の食堂まで、その後ドルミンがやってきてから自分達の食べるパンを焼きなおすために、厨房を探す必要があったのです。
食堂の奥に入った所にあります、この厨房もまた他の部屋と同じくしてとても広く、鍋やらフライ返し等が物凄い数揃っていて、中でも部屋の角の方によく使い込まれた大鍋があるのを見ると、この大聖堂は昔慈善病院か孤児院の1つでもやっていたんじゃないかと、そんな事を察させます。
厨房は中庭に面していて、中庭には井戸があるのですが、勝手に井戸の水をくみ上げて使う事も、子供が夜更けに古びた井戸に手を出す事も色々とデンジャラスなので、琶琉君は瓶に汲んである水を使う事にしているのです。
もういっそ瓶の水全てを使い切る位で手を洗います、この寒空の、こんな夜更けに手を洗っているのですが、洗っている傍から自分の手が凍ってしまいそうとか、そんな感覚に苛まれますが、そんな事よりあのべったべったりした物を一刻も早く洗い流したいのです。
手を洗いながら、白くなる息で裏琶琉君が、もう1人の自分へ話し掛けます。

「アイツが如何にかしようとしてる亡霊ってヤツは、何か1つの物を狂ったように取り合って死んだのだ、それならその物はきっととんでもない値打ち物に違いないぞ……」

「うん、でもドルミソ君はそれを如何にかするって言ってるから、変に手を出すと怒られちゃうよ」

「バカ、逆だ逆、先に探し出して我輩達2人で如何にかして見せたら、あのクサレ……いや、ドルミンも凄く褒めてくれるんじゃないか?」

「本当!? よかった、君もやっとドルミソ君の事解ってくれたんだね!」

それを聞くと、表琶琉君はパアッと顔を明るくして、裏琶琉君に思い切り抱きつきました。
でもコレは裏琶琉君の策の内だったりするのです、人が命をかけて取り合う程の物、それなら今の時代でもきっと価値があるはずです。
別に芸術とか、そんなに興味があるわけではありません、問題はその物から取れるお金です、価値がある物はそれを売っても大変なお金が入りますし、観賞に来る人間から見物両まで取れるのです。
裏琶琉君は別に守銭奴でもないし、お金にもそこまで興味はありませんが、偉い人にお金を払えば子供が人ので暮らしていても目を瞑ってもらえます、お金で自由が買えるのです。
彼は今、ドルミンが探している宝物を奪って、その宝物で自分達がドルミンの元に居なくて済むように、戦う気なのです。

その時、また先程まで誰も居なかった場所に誰かが立っているのです。
この場所でそんな事が出来る人間は1人しか居ないので、琶琉君は驚かなかったとは言えませんが、当初の時よりずっと落ち着いて対応できました。
正体の解らない彼は、自分に向ってまるで洗い立ての様にふわふわになった白いタオルを無表情のまま差し出して、そのまま格好でずっと同じ所を浮いています、どうやらタオルを受け取るまでそのままでいる気のようです。
裏琶琉君はそれを少し怪しく思いつつ、流石にタオルに針なんてベタな事は無いだろうと受け取り、それで手を拭きました。
そして試しに聞いてみるのです、司教の部屋は何処にあるか、案内しろ、と半分位は無視されると思っていました。
ところが、彼はこの明らかに怪しい質問と命令を従順に聞きました、琶琉君の手を引いてまた何処かへと連れて行こうとしているのです。
彼に手を引かれて司教の部屋へと連れて行かれる途中、裏琶琉君は誰に言う訳でもない独り言を呟きました。

「命を賭けて取り合う程……特別な物、か」

理解出来ない、そう一瞬口に出しそうになって、裏琶琉君は口を噤みました、その口を噤んだ一瞬に思い浮かんだ物が彼の発言を止めさせたのですが、それがなんだったのかは誰にも解りません。



そうして、1階から客室ある2階へ上がり、更に3階へと上がって西棟へ行けばそこは司教の書斎です、部屋の様子を見る限りだと、この部屋の奥に司教の自室があるようです。
司教の書斎は、そこに置かれた物全てが300年の月日を流しているというのに、傷1つ無く全て綺麗に整備されていました。
それでいて、時々聖堂には似つかわしくないような怪しげな本や、豪奢な物など、誰かに喜捨されたまま放置されているのか、それとも本人が望んで手に入れたものだか解らない物まで落ちています。
床は木製の床に絨毯を敷いてあって、自分達の寝泊りしている客室とは大違いです、いっその事此処に泊まった方があの部屋で眠るより数100倍は熟睡できるのではないでしょうか?
そこで見つけた物は、此処に住んでいた司教は『他を生きた先人と同じ様に生きたい』そう思って暮らしてきたという事で、彼の日記に書かれていた『私もそこへ行く事を望む場所』のヒントになっているのではないだろうかと考えると、自ずと簡単な答えが出てきました。

琶琉君の近くには、誰でもない誰かがいます、彼が誰なのか解らないし、彼も語らないままで、ずっと動かない時間が流れているだけなのです。

「ねぇ」

正体不明の彼はまた部屋の隅で命令を待つかのようにして、そこでぷかぷかと浮いています、表琶琉君は彼に向って手を伸ばしてみましたが、彼自身の反応が無い事と、直ぐに裏琶琉君が遮る事で、結局何もしないで終わります。
それでも無理矢理に彼に近付くと、彼の周りの大気がとても冷たく冷えていて、彼が人間でない事を嫌でも痛感させられました。

「君は誰?」

司教の自室には、コレといって見るべき物がありませんでしたが、彼の部屋に敷いてある絨毯からはまたあの臭い消しのための香料が漂ってきて、あまりにも濃い臭いにクラクラしてきます、ここでもきっと人が死んだのでしょう。
部屋には使いかけの万年筆や、書類などが当時のまま残されていて、ある日突然、彼らが何処へ行ってしまったかが生々しく、痛々しく映ってしまいます。

その間も彼は何の反応も無く、ただそこに漂っているのです、まるで最初から誰も居なかったかのように、ただ物のように。

「何処から来たの?」

ところでこの自分達の命令を聞く彼は、一体何者で、何時頃から此処に居るのでしょうか、10年前でしょうか、30年前でしょうか、100年前でしょうか、その間で彼がどうして今の人外なのかは知りませんが、それは深く考えると頭が痛くなってしまうのです。

「何時から此処に居るの?」

この感覚もドルミンが言っていた『呪怨』なのでしょうか、そんな事は琶琉君は知りません、ただ考える事も苦しいのです。
あの嫌な香料の臭いも、止まってしまったような大気も、みんな彼から生まれているのではないかという、錯覚にも囚われてしまいそうで、琶琉君は首を左右に振りたくります。

「お父さんとお母さんはいないの?」

そうして、二人はまた聖堂を深く深く、探索します、裏琶琉君には何か考えがあるようです。

途中、表琶琉君が『お腹減った』と呟いて、ほぼ強制的に食堂に連れて行かれたのは此処だけの話にします、彼はどうやら誰かが『お腹か減った』と言うと、何処からとも無く料理を作って、食べさせているらしいのです。
今回の料理も前回に増して美味しそうでしたが、結局は裏琶琉君が表琶琉君を説き伏せて、森で適当に取ってきた木の実を食べて食いつなぎました。
いい加減木の実にも飽きてきたのですが、それしか食べられないのだから仕方がありません、裏琶琉君も大分ムキなってきているのです。
そんな琶琉君の事、彼はずっと静かに見詰めていました。

「返事は…できないの? したくないの?」

何度琶琉君が呼びかけても、彼から返事が帰ってくることはありません、まるで話すことを忘れてしまったように、この時間が止まったかのような聖堂でたった一人漂っているのです。
琶琉君は黙って冷たすぎる彼の手を握りました、手は冷たすぎて氷のようで、先程水瓶に手を入れた時の様に手が悴んで痛いですが、冷たい手はじきに温かくなって、長く繋いでいる内に自分の体温が移って冷たかった手が暖かくなった時、琶琉君はなんとなくホッとしました。
何と無く、彼も自分と同じ物だった気がして安心したのです、手を握れば温かくなる、熱を移せば温かくなる、彼は悪魔なんかじゃなくてこの世界の生き物なのだ、と。

表琶琉君の中に、なんだかとても冷たいような、温かいような、そんな感覚が生まれました。
でも、その感覚をもう1人の自分に教えようとして、表琶琉君は口を噤みました、この事はまだ自分の中で大切に温めて、大切に孵した方が良いのだと、そう思ったからです。

琶琉君は、悪魔ではなかった誰かに付いていって、暗い階段を下りました。



お後は次の、お楽しみ。

nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(1) 

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。