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あんまり日食関係無いです、ぐんまけん [小ネタ]

日食SSS①
それなりに良心的な

登場キャラ:おじさん 弟妹2

良心度:★★★☆☆
(短い)
(それなりに)
(においつけ)







それなりに良心的な



このご時世、世の中の政治家諸君は二酸化炭素問題等という、聞くからに面倒臭い事に頭を捻っている様なのだが、こうも車が無いと仕事やってられない所を見せ付けられるとそんな気も無くなる。地球に優しい新車等、それこそ地球の上の方の住人しか買えないのだから、それこそ逆効果なような。
駐車場に車を入れて、キーを引き抜くと先程まで自分の体を冷やしていてくれたクーラーが切れて、風の無い冷たさの残像が辺りを包む。後は勝手に蒸し暑くなるだけなので、暑さでうだるまでに部屋に帰りたい。湿気取りも兼ねたそれのラベンダーの匂いの混じった空気は、疲れたら体には酷く辛く、徐々に重くなる。
長居は無用だ、書類鞄を手に持ってドアを押して、コンクリートの地面に足を……と、思ったのだがそれは阻まれた、コンクリートの床に人間の顔は生えていない。あまりにも突然の出来事に驚くが、こんな事をするのは俺の同居人達しかいないので、逆に安心する。世の中広い、仮に他に出来る奴が居たとしても、俺に仕掛ける理由が無い。
床に生えていた顔は俺が自分に気が付いた事に気を良くしたのか、にやぁ、と普段からのアルカイックスマイルを深くして、床の中から滑り出る様にして立った。本当に他に形容詞が無い故に、滑り出るといか言いようが無いが、別に地面に穴が開いている訳では無い。そいつが出てきた部分は、俺が目を擦って何度見直しても何事も無く、実に平和的。
こんな場所でも汚れた白衣一丁、俺が気が付かなかったとしたらお前、俺の足にまともに踏まれる事になっていたんだぞ? それを解ってないのか、解っていてやったのか……片方の眼孔に空いた大穴からは、一瞬先程までのコンクリートの地面の様な物が見えた気がするが、今は突き抜けた先にある髪の色が俺を見ているだけだ。

「おむかえおむかえ、きた、きた、きた」

「おう、ご苦労」

一歩間違ったら変質者な外見、白衣の前を持って両手を開くだけで猥褻物陳列罪になるそいつが、此処に来る間によく人に見つからないで居てくれたと感謝したい。もしかしたら見つかったのかもしれないが、こいつならどうやってで逃げてくるだろうし、俺と一緒に居る所で見つからなくて良かった。見つかれば俺が職質されてしまう。いや、されないか、こんな時間に外を出歩くサングラスとダークスーツの男に誰が声をかけるか。俺ならかけない。
今日の朝型に雨が降って心配だったのか、そいつの手には紺色の傘が握られている。雨は降っていないのでその傘を使う事は無いが、そう心配してくれると俺も嬉しいもので、やたらと目立つ外見のそいつを誰も居ないと知りつつ隠しながら、傘は受け取っておいた。持ち手が木製風の、俺がよく使っている傘。俺にそれを渡した手が、わにわにと動いて傘の形に固まっているが、別に何か変な事が起こる事は無いと思うので、そっとしておく。
触らぬ神に祟り無し……と、思えばやっぱり無事では済まなかった。別に大層な事ではない、突然肩甲骨の辺りを無造作に撫でられて、まだ撫でられている。出っ張った骨を内側に押し込む様に触るものだから、ツボが刺激されて肩こりが取れそうな反面、じわじわと痛くなってくる。何でこんな所でマッサージ? 長い腕を伸ばして骨を触るそいつはまた唐突に骨から手を放して、俺の背中で穴の開いた手の平をひらひらとさせる。
肩から手を伸ばされて、その先から何かが引っ張り出されてきたのを見ると、それはやたらとごっついデザインのゴーグル。最初は同居人の一人が何時も付けている物かと思ったが、よく見れば造りが違うとでもいうのだろうか、レンズの色や厚さが全くの別物だった。ああ、俺はコレを何処かで見た事がある気がする……今日は日食だったか。そいつはそれを自分の首に掛けて、頭をずいずいと俺に突き出す。

「変なのおみやげ、おみやげおみやげ、変なの変なの変なの」

更に詳しく、要領得ない喋り方のそいつの話を根気強くよく聞くと、何でも道に落ちていたらしい。さしずめ、日食観賞をしていた誰かが忘れていったまま、この時間まで放置されていたのをこいつが拾ってきたという訳だろう。あまり使い道が無く、故に珍しい物ではあるから土産にしたのだと、そいつは両足を大きく開いて仁王立ちになると、えっへん、という風に胸を張って誇らしげにしていた。とりあえず、褒めてはおいた。
その道に落ちていたらしい日食グラスは、よく見ると小さなヒビが幾つも入っていたので、道に落ちている時に車にでも轢かれたのだろう。今日が怪奇日食である事はとりあえず知っていたが、朝方に久方ぶりの雨が降っていた所為で丸一日見れないものだと思ったが、それなりに雲が切れた昼頃は見れたのか。
もっとも、俺は地獄の社会人であって、まじまじと太陽を見ている暇があるのなら働かなければならない。今日は一日室内仕事だったので、ついでに見る機会も無かった。まあ、やたらと暑い思いをしてまで見る気は無く、日食グラスも無しに太陽を見たら目が潰れてしまう、仁王立ちのそいつがどんどん足を広げていくのだが、途中遂に限界になったらしく、地面に長い手をペタリと付いた。アルカイックスマイルが此方を見ている。どうやら、今の体勢から元に戻る術ず無いらしい。
両手を持って立たせるのが普通だろうが、今腕を崩させると確実に前に倒れそうなので、車に傘を立てかけて、ひょろりと高い背の割に狭い肩を掴んで、上に引っ張って立ち上がらせる。こいつの体は穴だらけの所為か、どうも外見より軽い。立ちなおさせてやると、頭だけをかくん、と下げて礼をされたので、つい釣られて返してしまう。髪が分けられて、穴の開いた目が後ろの景色を写す。俺の隣人が乗り回している、白い車だ。

「日食グラスか……今日はそういやそうだったな」

「おじさんおじさん、おじさん。
 おじさんの太陽、太陽太陽太陽も、変? 変になった? 変になった?」

「……俺の太陽ねぇ。
 変になってはいたんだろうが、見てる暇は無かったな」

関節の間に糸でも通っているのではないか、そんな風に思わせる動き方でわざわざ鳥篭の様に骨が剥き出しになった膝を折ると、俺の顔をしたから覗くそいつは、口の中で普段こいつが自分の片割れと話している時の様な、俺には解らない訳の解らない言葉をぶつぶつと呟いている。顔を逸らすと、変な呟き声は止まった。
それでも妙な事を聞かれている事に変わりは無く、太陽が変になった=日食の事、と受け取っていいものか悩む。こいつ等は自分達でしか通じないような、妙な物の例え方をするので、言っている事がそのままの意味とは限らないのだ。素直な意味でなら、俺は今日あまり太陽を見ずに、社内のクーラーにお世話になりっ放しでしたよ。ただきっとその事ではない。絶対に違う。
じゃあ一体何のことを言っているのか、考えど考えど、俺はさっぱりと皆目見当がつかない。絨毯の柄に似た髪の色、猫の耳のような部分がざわざわと揺れたのを見て、やっぱりこの部分は耳だったのかと思って障ってみたが、ワンテンポ遅れて風が吹いたのを感じる。別に軟骨があるわけでも、血が通っている事も無く、これは耳ではない。耳の様な部分は質の良いタオル生地の様で、触っていて本当に髪の毛なのかを疑っていしまった。
耳の様な部分を触られている時、爪のささくれが引っ掛かってしまったらしく、思いがけずに髪を引っ張ってしまったが、それでも構わないと言った風にそいつは俺の手の平に頭を擦りつける。撫でてもらっているというより、獣が自分の縄張りに自分の匂いを付けるような、ぐりぐりと。手の平がとんでもなく暑くなってきて、悪いが手を放させてもらった。予想通り、手からはそいつの匂い……というより、そいつの体に沁みた薬品の匂いがする。
くぐーる、ぐぐーる、と喉を鳴らしながら、またそいつは俺の手を勝手に握ると、今度は腋の下に挟んで鳴き始めた。いや、そこなら確実に何かの匂いは付きそうだが……手を握られた時、異常な白さをした手の平の中心に、俺の普通の黄色人種の肌が重なって、滑稽な気分になる。喉を鳴らしているそいつは、人間というより動物そのものに見えて、腋の下から手を抜こうとすると、しゃー、と鳴かれた。
本当に獣の様だ。これだったなら、訳の解らない言葉をぶつぶつと呟かれるよりよっぽど解りやすくて、俺的にもやりやすいんだがな……普通の人間よりは冷たく、人工の冷風には負ける程度の体温はじわじわと俺の体を冷やす様で、太陽の光より俺の肌には優しい。

「なら? なら? 代わりでいい? 代わりでいい? いい? 代わりで」

「お前、そんなに俺の何かになりたいのか?」

相変わらずも訳の解らないそいつは、何時も通りのアルカイックスマイルを俺に向けたまま、こっくりと頷いた。

「うん」
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